おまけ12:開発会議
開発の話のプロト版。
「これから第3回開発会議をはじめまーす」
紙に書き出したアイデアを放出するだけでは伝わらないこともあるし、そのまま使えるとも思ってもいないわけで。
――この会議も既に3回目。
3回目のこの会議は服飾関係の会議だな。
機械関係の会議とかはもう10回を超えてたはず。それはどうでもいいか。
「はい、では私から報告させてもらいます」
返事も待たずにスっと立ち上がる一人の男。
さすがこの町の人達はやる気に満ち溢れてる。
「えーっと……」
誰だっけ?
「下履き屋です」
ああ、ズボン屋さんか。
下履きって言われると靴屋と間違えそうになる。
「では、前回アシュクロフト様の提案してくださった、下履きの腰周りの部分を折り曲げて縫い、紐を通す商品ですが、非常に人気でよく売れています」
毎回思うけど言葉にすると難しいな。
図かサンプルが欲しい。
今話してるズボンは、腰の部分に紐の通ったジャージだな。
ベルトみたいに縛って使えるアレ。
今まではズボンの上から紐で縛ってたから、紐内蔵はとても喜ばしい商品だったようだ。
まあ、俺の場合はノイエにオーダーメイドしてもらっていたから関係ないんだけどね。
「ですが、柔らかい素材ならよいのですが、毛皮のような堅い素材ですと、どうにもうまくいかないようです」
そうかな? 別に固くても平気そうだけど。
いや、
少し硬いジーンズも、ジャージと違ってベルトを使うし、なんかしら理由があるんだろう。
「それなら堅いズボンにはベルトを使おう」
「ベルト?」
分かっていないようなので、簡単に紙でベルトを作って見せる。
「こうしてベルトを通す部分をズボンに作ってそこに通せば落ちないだろ?」
「なるほど……今までの紐を丈夫にしたような感じですね。ですがそれだと、どうやって結ぶんですか?」
そりゃあオメー、ええと……名前なんだっけ……?
ああ、バックルだ。バックルを作って……?
バックルってどうやんだ?
どうやってベルトに固定してあんだ?
そもそもバックルの構造がよくわからん。
どうしよう…………あ。
「ベルトの片端にリングを二つ付けるんだ。すると、こういう感じに通して使える」
紙の片端にリングを二つ付け、腕に巻いてみせる。
ダブルリングベルトだ。
簡単で便利、いいね。
「なるほど! それがベルトですか。金属を扱ってる工房と協力して作ってみます。紐の部分の素材は色々試してみます」
「革でいいんじゃないか? 魔物の」
「わかりました。まずそちらを試してみます」
うむ。これでまた一歩現代に近づいた。
「次は私で」
お前は知ってるぞ。たしか服屋だ。
「私の方は特にありません」
ないのかよ。じゃあ挙手すんな。後にしろ。
「しいて挙げるなら、色とりどりに作った服が売れないという点ですね」
やっぱりあるのか。
色とりどりというかカラフルな服が売れないのは、まだファッションの意識が根付いてないからだな。
「なら、いくつか俺の方で買い取ろう。俺が着て町をうろついてれば真似して欲しがるやつも出てくるだろう」
そしていつかファンションに目覚める奴が出てくるといいな。特に女の子。
ミニスカートはあんまり好きじゃないから、もっとこう重ね着で着飾る感じのファッションが流行って欲しい。
ノイエとリリセラ、特にリリセラはそれなりに見た目を気にしてるからファッションの発展には期待だ。
「鞄屋です」
まるで自己紹介みたいだ。
この人は前回の会議から参加した人だな。
「アシュクロフト様のアイデアで作った、リュックという鞄ですが飛ぶように売れています。ただ、紐が肩にくい込んで痛いという苦情がたまに来ます」
何? 紐で背負っているのか? そりゃくい込むだろ。
どうも一回二回の会議だと穴が出てくるな。
これからも会議は必要になりそうだ。
「それはさっきズボン屋に提案したベルトを肩にかける紐として使うと良い。他にもベルトに通して腰で使う小さい鞄、なんていうのも新しく作ってみたらどうだろうか?」
「すみません、どのような形のものでしょうか?」
ウェストポーチを紙に書いて見せる。
トートバッグとかも欲しいし、後で思いつく限りを絵に書いて渡そう。
絵心ないのが唯一の難点なんだよな、俺。
唯一じゃないけど。
「こんな感じかな。後でまたアイデアを出すから、明日役場に取りに来てくれ」
「わかりました、明日ですね」
◇
「じゃあ、今日はこんな所かな」
それからもあーだこーだの話し合いを進めて、今回の会議は終わった。
基本的に俺が質問に答える感じになるけど、専門以外でも話あってくれるから助かる。
活気があるというのはいいことだ。
「じゃあ次回の日程は――」
一度に全部を話し合うのは無理だけど、他にも開発もしたいものなんて山ほどあるし、まだまだやることは多そうだ。
説明的な話が多いしお蔵入りにしようと思ったけど、勿体ないから投下。