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おまけ10:大雨の日

「今日は大雨だなー」


 窓の外を見るとイッツ レイニング キャッツ アンド ドッグスだった。


 It's raining cats and dogs――


 俺が唯一覚えている英語の熟語だ。意味は雨がざあざあ降っているだったはず。

 なんで犬と猫なのかはわからない。


「トーヤ、いいの?」


 いいんだ。

 雨の日は外に出たくないんだ。面倒くさいことには関わりたくないんだ。


 まあでも、こうやってのんびり出来るのも今のうちだけなんだ。

 だって、もう外から俺を呼ぶ声が聞こえるもん。悪魔の声が。


「村長ーー! 村長ーー! 作物がーー! 雨でーー!」


 わかってるよ。わかってる。


「ご主人、呼んでるよ?」


 わかってるってば。





「じゃあ、行ってくるから」


「後で差し入れ持っていきますね」


「ありがとう、期待してる。超期待してる」


 リリセラの声援を受けてトボトボと外へ出る。

 雨は容赦なく俺の身体を蹂躙しようとするが、空気の壁を作っているので俺に当たることは当然ない。


 雨は嫌いだ。

 日本にいた頃みたく一日中降るわけじゃないけど、雨をどうにかしないといけないのがすごく億劫なんだ。



 雲を消しちゃえばいいじゃん。



 と思い、前に消したことがある。

 そしたら大変なことになった。大惨事ってやつだ。


 雨が降るような日の雲は普通の時とはまず量が違う。

 晴れた日の小さな雲一つですら、プール一杯分よりも多い水量があるんだから。


 小さな雲ですらその量なら、雨の日はどうなるかというと――



 水没しますよね。あたり一面。



 ずっと前、森でジジイと住んでた頃に調子に乗ってやったらやっちゃった。

 ちょっと笑えて、ちょっと笑えない展開になった。


 なので、村ではどうしているかというと。


「やっと来ましたか」


 村人が申し訳なさそうに出迎える。


 申し訳なさそう口調なのに、言葉自体は責めてるように聞こえるのはなぜだろう。

 俺の心が荒んでるせいかもしんない。


「じゃあ、やるから」


「すみません村長、お手数おかけしまして」


 いいんだ。

 自給率はもう100%を軽く超えてるけど、輸出とかあるからな。雨で作物ダメになったら困るもんな。





 畑全体の中心に近い部分に椅子を用意して座る。

 これから数時間、俺は畑の傘となるのだ。


 空気でドームを作り、降ってくる雨をどけ横に流す。雨が止むまで。


 前に、水路を作って雨が止むまでの間――集めて、流して、集めて、流してって言うのも前やったけど、超大変だった。


 普通の雨の日はそもそも何もする必要がないが、大雨の日は雲の動きも速いので、どちらにせよ止むまで何らかの作業を続けないといけないことが判明した。


 色々試した結果、思考停止で傘代わりになるのが一番だとわかったのさ。

 今日みたいにね。





 2時間も経った頃リリセラ――ではなくノイエが来た。


「お疲れ様、大変そうね」


 そういって椅子を隣に並べ横に座る。


「リリセラは町か? アンコは?」


「うん、リリはお迎えが来て町に行ったわ。アンコは牧場の方を見に行ってる」


 なんかアレを思い出すな。日本にいた頃よくあったアレ。


 ちょっと水路の様子を見に行ってくるっていって、そのまま流されちゃうおじいさんのニュース。


 アンコの川流れ。

 ダメ、それ洒落にならない。


 まあ、牧場なら水路らしい水路もないから平気だし。

 なんかあっても滑って転ぶくらいだ。


「これ、大変よね。毎度ながら」


 ホントだよ!!


「ホントだよ」


 あ、口に出た。心の中程には勢いはなかったけど。


「私も手伝えたらいいんだけどね」


 ノイエさん優しい。

 俺も出来れば変わってもらいたい。


 血を賢者の石代わりに使って出来たらいいんだけど範囲がな。大量出血する位なら傘役するわ。


「ノイエはどの位出来る?」


 俺の負担が軽くなるなら是非手伝ってもらいたい。


「畑一つか二つ分位かしら」


「そっか」


 それなら俺の作業量も大して変わらないか。


「暇ね」


 ホントだよ。


 雨の日は退屈との勝負だ。

 馬車の中でダラダラしてた頃よりも景色も変わらない分、退屈だと思う。



「そういえば差し入れは? なし?」


 リリセラが持ってきてくれるっていうから期待してたんだけど。


「そういえばリリが言ってたわね。用意してくるわ」


「待って。行かないで」


 寂しくて死んじゃう。うさぎさんだから、俺。


「ちょっと、雨入ってきてるから」


「おっとっと」


 ノイエに気を取られすぎて魔法が消えてた。


 一瞬の間、空気のドームが消えるだけでも雨はザーザー入り込んでくる。


 暇で暇で仕方がないのに、気を抜くことも出来ないなんて……。



 あー早く雨止まないかなー。

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