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「お兄様!見てください」
そう言って勢いよく扉を開けて飛び込んできたのはまだ幼さの残る黒髪の少女だった。
手にはテスト用紙が握られている。
「どうしたんだい?あぁ、愚問だったね。また、満点だって聞いたよ。流石だね。ローズ」
そう言ってローズと呼ばれた少女ロゼッタの頭を撫でて褒めるのは17,8くらいの青年だ。ローズの兄レオナードだ。褒められたロゼッタは恥ずかしそうに、くすぐったそうにはにかんでいる。しかし、眉を下げて、困ったような顔で兄に話しかけた。
「あのね、お兄様。私…」
「ロゼッタ〜!お父様が呼んでるわ〜」
そう言って扉から見えたのは彼女の母であるアリシアだった。
「あっ、お母様!分かりましたわ。お兄様、後でローズのお願い聞いてね?」
最後にドアから顔を出して兄に一言言うと走って去っていった。
「ロゼッタも大きくなったわね。」
アリシアはロゼッタの後ろ姿を見ながら言った。
「母上、本当にローズを彼らの元へ嫁がせるおつもりですか?」
レオナードはロゼッタが消えていったドアの先にいるアリシアに尋ねた。
「ええ、それが一番いいのよ。」
「それはロゼッタに…ですか、それとも…」
「あの子のためよ。それ以外に何があるっていうの?」
「貴女はあの女に悪いことをしたという罪の意識から逃れたいがためにロゼッタを…」
「黙りなさい!ロゼッタは…あの子は分かってくれるわ。聡明ですもの。では、私は失礼します。」
アリシアはこれ以上話すことはない。否、何も言わせないというように去っていった。
残されたレオナードは
「ロゼッタのため、か……」
と呟いた。
『あの子は何を望むのだろうか』
誰もいなくなった部屋で自嘲じみた声がただ虚しく零された。