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拝啓 自分様  作者: 荒川 晶
最初の日
5/43

最初の日 4

「まだ朝になったばかりだ。余裕で昼過ぎには着くじゃろうから安心せい」

短いため息を吐く二人の背中をバシンと叩き男は送り出した。

「うん……よし、頑張っていこう」

 祐樹はぐっと背中を反らせた。

 藍もくるりと振り返ると、深々とお辞儀をする。

「色々とありがとうございました。あの、今更ですが名前はなんていうんですか」

「田中三郎だ。お前ら元気でなー」

 田中と名乗った男はぶんぶんと腕を振って青年達を見送る。二人は慣れない草履をぱたぱた言わせながら京の町へと向かうのだった。


「着いた……」

 二人は京の町を目の前にして足を留めた。

 祐樹は腕についたデジタル時計を見る。結局あれから、虫や山道と戦いながら、四時間ちょっとで着いた。正しい時間はわからないものの、何時間かかったかくらいはわかる。便利な物で、太陽電池で動いているので――消耗していつかは消えてしまうのだろうが――しばらくの間は普通の腕時計に比べて電池切れの心配はあまりない。唯一使える未来の道具と言ってもよい。恐らく、だが、昼前後だろう。

 古めかしい木造の建物が立ち並び、人々が忙しそうに行き交っている。テレビドラマなどで見るよりも人々は全体的に背も小さく、顔立ちや化粧などもとかく古い印象だ。当たり前といえば当たり前だが、現代の美意識とはやはり何か違っているようだ。女性はややふっくらした人が多く、びしっと着物を着ているわけでなくどこか緩くきており、男性も眉毛がよく生え小柄な者が目につくように思えた。

 二人は行き交う人々を見ながらどこか休める場所はないかとあちらこちらに目を向ける。けれども一文無しゆえに、店に入ることも出来ない。

「とりあえず、四条ってあたりに向かってみよう」

 休むことを断念して祐樹は地図を広げる。

 来た道を指で辿り、あとはその道をまっすぐ歩くだけでいいようだ。

 藍は靴擦れ――草履擦れ――ができてしまったようで時折顔を歪めながら歩いていた。

「足、大丈夫?」

「一応大丈夫」

 この四時間で大分仲も良くなったらしく、祐樹は藍に足の調子を聞いた。大丈夫?と言われたら、大丈夫と返すのが癖になっている藍は、言った直後にしまったという顔をし、「でも痛い」と付け加える。

「四条までいったら、例の人を探して消毒できないか聞いてみよう」

 祐樹はそれに気付いていたのか、彼なりの気遣いをする。それでも誰かに頼らなければどうしようもできないこの状況故に、彼らは仕方なく再び歩きだす。

 そんなとき、周りの人間が二人をちらちらと見ながら何やらひそひそと話すことに彼らは気が付いた。

「やっぱり浮いてるみたいだね……」

 藍はぼそぼそと話す。

 まず、彼らは背が高い。この時代の女性なんて一四〇くらいじゃないかと思える人もいる中、藍は一六〇センチもある。男性もしかり。当時の一七〇センチといえばかなりの大男だ。服もつんつるてんである。そして、村で田中と会っていた時にはあまり気にしていなかったが、彼らはとかく奇抜な髪型なのだ。藍はショートカット。つまり当時の女の命である髪が短いのだ。祐樹に関しては耳よりやや長めで、茶髪に染めている。

 現代では当然であることが、二世紀も遡るとこんなにも注目を浴びる。正直二人は恥ずかしい思いでいっぱいだった。

 そして、そんな怪しげな二人に後ろから声をかけてきた一人の人間がいた。

「ちぃと止まれ、おぬしら」

 少年と少女はびくりとして振り返る。

 じろじろと訝しげな目で見てくる男、姿形からしてどうやら役人のようだ。

「おぬしら見かけぬ風貌をしておるが、いずこから参った」

「あ、あの……えっと、四条近辺に女性の知り合いがいるんでそちらに……」

 祐樹は思わず答えてしまった。しまった、と思ったがもう遅いとわかった。

「行き先ではない。どこから参ったのかと尋ねている」

「えーっと……」

 祐樹はしどろもどろとする。下手な受け答えをすれば捕まるかもしれない。未来から来たなんて信じてもらえないだろうし、と、心臓が速く打ち出す。

 刹那、藍が放つ。

「私達、一五〇年後の西暦二〇〇〇年の未来から来ました。一〇〇年後の未来から来た女性を探しています。四条あたりにいると聞いたのですがご存知ないでしょうか」

 祐樹はぎょっとした。まさか馬鹿正直に答えるとは思いもしていなかった。

 役人とおぼしき人物は一瞬キョトンとしたあと眉を吊り上げる。



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