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ドラゴンブレイカー  作者: kairi
ディールム
2/7

依頼へ

今、ディールムが朝を迎えようとしている。

朝日と共に街の人々が動きだし、活気が満ちる。

宿屋や料理屋からは美味しそうなにおいが立ち込め、賑やかになる。


街ってこういうものなのか。

今までの田舎生活から考えたらありえないようなことがここでは常識みたいだ。

俺もそのうちこれに慣れるのだろう。




俺、リニアスは、昨日田舎村のエルトからこの大都会のディールムへとやって来た。

田舎から来たすぐで、常識がほとんど無くていろいろ苦労したが、親切な人達のおかげでなんとか一日過ごすことができた。


冒険者の登録をし、良い宿を見つける。

たったそれだけのことをしたにすぎないのだけど。


大げさだと思われるかもしれないけど、田舎者にとって都会は怖いものだ。


得体のしれない人や、知らない場所。

見知らぬ広い街で迷う心配もある。

その分いいところとか便利なところも多くあるんだけどね。


例えば、宿屋の布団が柔らかい、ご飯が美味しい、水道があるということだ。


特に、井戸から水を汲まなくていいなんてすばらしい。

ここでは、蛇口というものを捻れば簡単に水が出てくる。

水の量も調節でき、いつでも自由に水を使えるのだ。

もう以前の生活には戻れないかもしれない。


一日生活しただけでこんなにいい所が分かったから、きっとまだまだ見つかるはずだ。

というか見つけてみせよう。


いずれ村へ帰ることがあったらそれを皆に知らせてあげよう。




そんな立派な都会で、俺は今日から修行の日々を送ろうと思っている。


故郷のエルト村で基礎はできているが、俺の目標のためには、そろそろ新しい段階に入った方がいいと思ったのだ。


今日は、朝早く起きて、いつもと違う部屋に驚いた後、愛剣を持って春亭の裏庭に向かった。


もう厨房からは音が聞こえていたけど、さすがは都会だ。

朝からやることが多いのかもしれない。



俺はそこそこ広い裏庭に着くとすぐに、真剣を使ってトレーニングを始めた。


まず普通に筋トレをしてから、素振りをひたすら行う。

体が疲れてきたら、それからステップを入れながら相手を想定して動き回る。


今日の相手は魔物『ハウンドドッグ』。

犬のような外見とは裏腹に、凶暴で賢いやつだ。単体なら倒すのは難しくないが、群れに遭遇するとなかなか手強い。


俺は囲まれたことを想定しながら、死角をつかれないように動き回り、一体一体倒すのを理想としている。イメージでは、大体五十体ぐらいの群れに囲まれている。


俺が動き始めるとあっという間に頭の中でその数はどんどん減っていく。

あと十……九……八七六……五……四三……ニ……一……


「おはようリニアス君! あ、ごめん……。邪魔しちゃった……」


零……。

少し邪魔が入ったけど朝の鍛錬はしっかりできた。

今の段階では十分及第点だ。


「リニアス君、修行終わった?」


「ああ。朝の分はこれで終わりだ。今から湯浴みしたいんだが、湯って準備できるか?無理なら水でもいい」


自分でも思うんだけど、女の子と喋る時って必ず口調が厳しめになる。

こんな喋り方、エルト村では滅多にしたことないんだけど。


そういえば昨日のギルドの受付の人にもこんな感じで喋ってた気がする。

……まぁ気にすることもないか。


「えっと…。湯浴みなら大丈夫だよ。うちはいつでも温かいお湯準備できるから。食堂のお母さんに言ってくれれば問題ないよ」


「分かった。ありがとう」


「あ……うん。お疲れ様」


「ああ。またな」


さっきから俺に話しかけてくれる女の子は、春亭の看板娘、カリン。

看板娘と言うだけあって顔は可愛いし、頭の回転も速い。

おまけに性格も良さそう、なんていうすごい子だ。


今だって俺に声をかけてくれるし、面倒見もいいんだろうな。


カリンのことはおいといて、とりあえず湯浴みをしようと思う。

故郷の村でもそうだったが、この街でも湯船というのは滅多にあるものではないらしい。

だから、桶に水を貯めてそれで体を拭くっていうのが一般的なスタイルだ。


湯船があれば魔法の練習も兼ねて湯を入れてもいいんだけど、貴族の屋敷ぐらいにしかないものらしいからな……。


俺は修行を終えた姿のままで、宿の厨房へと向かった。

そこには、朝食を作っているカリンの母親、ラリエットがいて、何か物凄いスピードで食材を操っていた。


「ラリエットさん、湯をもらいに来たんだがいいか?」


「あら、リニアス君じゃない。こんなに早起きなんて偉いわね。すぐ用意するから待っててくれる?」


「ああ。ありがとう」


ちなみにラリエットは喋っている間も手を動かしっぱなしだった。

とても喋っているとは思えない手つきで、だ。


「はい、どうぞ。使い終わったら湯は捨てて、桶だけ返すんだよ」


ラリエットはそう言ってお湯を張った桶を持って来てくれた。


無料でこのサービスが受けれるなんて素晴らしい宿だ。


「分かった。じゃあまた朝飯食べに来るから」


そう礼を言って部屋へと戻る。

部屋に戻るとすぐに服を脱いで下着姿になり、手ぬぐいに湯を浸して体を拭く。


まだ暑い季節ではないが、しっかり体を動かせば汗はそこそこ出る。

放っておくのもいやなので、できるだけ早く拭くことにしているのだ。




ゆっくりと体全体を拭いた後、また服を着て朝ご飯を食べに行く。

今度は桶も一緒に持っている。


自分の部屋がある二階から食堂のある一階へと降りると、まだそこにはほとんど人がいなかった。

空いている食堂で窓際の席を陣取り、朝食が運ばれてくるのを待つ。


昨日聞いた話では、春亭は朝食と夕食を準備してくれるらしい。

それぞれ注文はできないが、毎日同じ食事というわけではない。

日ごとで違うメニューをラリエットが考えて作ってくれるらしい。

でも、食事は宿で食べなければならないなんてことはないから、その辺は自由になってい

る。


少し窓の外を眺めながら待っていると、カリンが朝食を持ってきてくれた。

本当に優しいな。


「はい、朝ご飯よ。今日はパンとコーンスープ。じっくり味わってね」


キラキラした笑顔でそんなことを言われると……いや、なんでもない。


「ありがとう。食べ終わったらそっちに持っていく」


俺はまた堅い言葉を呟いて、柔らかいパンとスープを食べ始めた。




春亭のパンは柔らかくて甘い。

決して砂糖みたいな甘さではない。

素材の味というのか、昔母親が焼いてくれたパンみたいな味がする。

少しだけ懐かしい。


コーンスープも絶品だ。

こんなに美味しいスープは今まで飲んだことがない。

後天スキルとはいえ『料理』を持っている俺でもこんなに美味しいのは作れないはずだ。

一体どうやってるんだ……。



結局あっという間に朝食を食べ終え、ラリエットさんに感想を伝えた後、少し時間が早いとは思うけど冒険者ギルドに行くことにした。


昨日は登録するだけでなんか疲れてしまったから、今日からが冒険者としてのスタートになる。


簡単な依頼から始めてもいいけど、あまり遠回りはしたくないな。

時間もそんなにあるわけじゃない。

短期間で強くなる方法を考えないと。


ということで、今日はギルドに入ってからまず依頼ボードに向かった。


確か昨日の受付員の人の話では、自分のランクの2個上までの依頼なら受けていいとか言ってたよな。

俺はまだ初心者のF。

受けれるのはDまでだ。


Dの中でモンスターを討伐する依頼は…………お、あった。



依頼名:グレイウルフ討伐


内容:最近ディールムの北の平原に住み着いたグレイウルフの討伐。5体以上討伐で依頼達成となる。討伐証明部位を受付に持ってくること。


ランクD


依頼者:ディールム騎士団



これなら多分死ぬことはないし、今日の修行の成果が多少なりとも発揮できるはずだ。

よし、これにしよう。


依頼ボードからその依頼書をはがし、受付へと持っていく。

今日は昨日の美人の受付員の人はいないみたいだから、誰でもいいか。


「この依頼を受けたいんですけど」


「分かりました。ギルドカードを見せてください」


サッとカードを取り出す俺。


「はい。リニアス様ですね。では、お帰りの際にグレイウルフの討伐証明部位である爪を持ってきてください。この依頼は一週間の期間がありますのでご注意ください。一週間以内に達成できなければ失敗となります。その場合は違約金をいただきますのでご注意ください。それではいってらっしゃいませ」


いろいろ注意事項はあるが、これでようやく人生初の依頼を受けれる。

張り切っていこう。


そして、俺は軽く食料などの準備をした後ディールムの北門から外へ出た。

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