表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンブレイカー  作者: kairi
ディールム
1/7

プロローグ 冒険者ギルドにて

新連載です。

よろしくお願いします。

<ディールム冒険者ギルド 日誌

一の月 二十日 当番 エリン>


時刻は朝と昼の間くらいだったでしょうか。


いつもこの時間だけは人の少ないディールムの冒険者ギルドに、一人の幼い男の子がやってきました。


上背がなく、体も華奢な少年です。


彼は扉をゆっくりと開け、受付に向かって歩いてきました。そして、少し進んだところで周りを不思議そうに見回し、立ち止まったのです。


このギルドは街の中でも立派な建物の一つですから驚くのも無理はありません。


少年は黒髪で色白。

左眼には眼帯をしていますが、右眼は黒く光っているのが見えますね。


顔はハンサムなのですが、思わず冷たい印象を受ける目つきです。

多分視線が鋭いということなんでしょう。

その鋭さを除いてしまえば優しくかわいい雰囲気に様変わりしそうです。


年齢は分からないですが、おそらく十四、五歳だと思われます。


その挙動不審な態度、腰に差した長剣から少年の目的を読み取ることができます。

おそらく冒険者になりたいのでしょう。


冒険者ってかっこよく見られがちですからね。

気持ちは分かりますよ。




私としてはこんな小さい子に冒険者なんてやらせたくはないんだけどな。




しばらく彼はギルドの中を観察した後、唐突に私に声をかけてきました。

私って人気者ですね。


い、いえ、やっぱりそんなことはありません。

たまたま受付員が私しかいなかっただけでしょう、きっと。

調子に乗ってすみません。


「ここは冒険者ギルドか?」


「は、はい。その通りです。何か御用ですか?」


言葉遣いはただの悪ガキ。

丁寧さは感じられません。


「ここで冒険者の登録ってできるか?」


それって「私があまりにも無能そうだからできないんじゃね?」とかそういうのですか?

私は確かに若いですけど、それぐらいはできますよっ。


「はい。できますよ」


ちょっと怒り気味に返答してしまったかもしれません。

そんな気持ちはないんですよ?


どうか許してください。


「じゃあそれを頼む」


「あ、はい。では、こちらへどうぞ」


馬鹿にされたことを忘れて業務に徹する私って偉いですよね。

それでもギルドの中では一番の下っ端なんですけど。


「こちらで個人情報を記入してもらいます。失礼ですが、文字は書けますか?」


「だ、大丈夫…だ」


「そうですか。それなら、こちらの用紙に必要事項があるので出来るだけ記入してください。何か質問があればどうぞ」


私は冒険者を登録するのは初めてです。

失敗しても優しく慰めて……。

ついでに日誌を書くのも初めてなので、内容に関して怒るのもやめてくださいね。


少年は、しばし書くのに集中。

まるで私がいないかに真剣に書いています。


渡したのは普通の用紙と羽ペンですが、すぐに引っかかって書きにくそうです。

あ~、また引っかけた。

そのうち紙が破れちゃうんじゃないでしょうか。


「お、終わった……」


羽ペンと紙の勝負は紙の勝ちみたいです。

よく頑張りました。


「はい。えっと……それでは確認しますね。名前は…リニアス…様でよろしいですね?」


「ああ」


「出身はエルト村。使用武器は長剣。年齢は…十七歳っ⁉」


「……合ってる。全部その通りだ」


マジですか?

だってあなたどう見ても十四歳くらいにしか……。


「本当に十七歳ですか?別に登録に年齢制限とかは無いですから、実年齢言っていいんですよ」


本気で驚いて失礼なことを言ってしまったようです。

視線が三割ぐらい冷たくなった気がします。


「おい。こう見えても俺は十七歳だ」


「し、失礼しました。用紙の記入が完了しましたので、こちらへどうぞ」


少年はどうやら自分の華奢なところを気にしているみたいです。

本当にごめんなさい。

仕事はきちんとやりますから許してください。


その後、冒険者登録に必要な情報を集める機械に案内しました。


「この装置の穴に手を入れてください。私がいいって言うまでお願いします」


「分かった」


少しリニアス君を放置して、装置をいじります。


この装置はアビリティやステータスを測定する機械です。


アビリティには、先天アビリティと後天アビリティがあります。

先天アビリティは生まれた時から持っているアビリティで、基本的には一人一つです。

稀に二つや三つ持った人もいるそうですが、私はまだ見たことがありません。


後天アビリティは生活の中で手に入れるものです。

普段よく使う技能や、上達した技能はここに含まれます。


先天アビリティと後天アビリティの両方に含まれる技能もありますが、先天アビリティの方が強いアビリティです。


例えば、魔法を先天アビリティで持つのと後天アビリティで持つのでは、先天アビリティの方が強いことになります。


ステータスには基礎ステータスと戦闘ステータスがあります。

力、敏捷、知力、精神が前者に含まれ、剣技、魔法が後者に含まれます。


それぞれランクがあり、E、D-、D、D+、C-、C、C+、B-、B、B+、A-、A、A+、S-、S、S+、SSに分類されます。

E以下なら全てE。

SS以上なら全てSSになります。


そして、基礎ステータスと、剣技か魔法の優れた方のステータスを用いて平均ステータスが表示されます。


成人一般男性でも大半はEランクを上回ることはできません。

冒険者としては、Cランクにまでなれば一人前と言えるでしょう。


さて、そろそろ測定も終わったようです。

結果を見ましょうか。


「リニアス君。もう手を抜いていいですよ」


「……ああ。何を調べたんだ?」


あらあら。知らなかったんですね。

まぁ半分予想はしてましたが。


私はさっきと全く同じ説明を繰り返しました。

少し面倒くさいとか思ってたわけじゃありません。


馬鹿にもせずに説明してあげるなんてやっぱり私は優しいですね。


「そうか。それで結果は?」


おおっと……。

説明が長すぎてすっかり忘れてました。


「測定結果は……。えっと、先天アビリティが『神速』『エフェクター』『使い魔』……ってえぇぇッ!あ……。失礼しました。後天アビリティが『魔法 全属性』『見切り』『料理』。ステータスは力D+、敏捷B+、知力C+、精神B-、剣技C、魔法C+。

平均ステータスはC+……。えぇぇぇぇ⁉」


私は心底驚きました。

だって先天アビリティが三つですよ⁉

それに優秀なものばかりじゃないですか……。

後天アビリティまで凄まじいものが揃ってますし……。

最後の『料理』もその歳で身につけることはそうそうないはずです。


極めつけはステータスです。

平均ステータスC+ってやばいですよ。

もうすでに一人前ですよ。


この子本当に十七歳ですか?

実はもっと上なんじゃないですか?

若作りか何かですか?


とりあえずこの新人は只者ではないと確信させられました。

この子はそのうち有名になるんじゃないでしょうか……。


サインでももらっておきますかね?


「パニクってるとこ悪いんだが、早く進めてくれないか?」


「あっ……。すみません。すっかり取り乱してしまいました。後はこのカードに血を少し垂らしてくれればそれで終わりです」


落ち着きを取り戻した私は、針とギルドカードを渡しながら言いました。

そのギルドカードにはとんでもない情報が書かれていますけれど。


「できたぞ。これでいいか?」


「はい。登録自体はこれで完了になります。登録料は無料ですから必要ありません。少し、ギルドカードについて説明しますね。そのギルドカードはどこの冒険者ギルドでも使えるようになっていますし、お金の預貯金や、宿屋の割引にも使えて便利です。無くすと、再発行時に5000テルの罰金が発生しますのでご注意ください。身分証明書の代わりになったりもしますから常に持ち歩かれるのがいいと思います。万が一失くしたとしても、本人以外は使えないようになっていますのでそこはご安心を。次に、依頼の受け方です。そこのボードに貼ってある依頼の中で受けたいと思うものを受付に持ってきてください。そうしましたら、受付の者が判子を押して受理完了となります。依頼完了後に、完了の証明となる物を持ってきてくだされば、受付で受理しますのでお願いします。他に何か質問はありますか?」


一気に喋ったので少し疲れました。

これから何回もこういう説明をしなくてはいけないんですね。

……はぁぁ……。

前途多難です。


まぁでもリニアス君が私を見直したように、驚いて見ているようなのでよしとしましょう。


「あ、ええっと……。こ、この街に来るの初めてなんだが、オススメの宿ってあるか?」


「……そうですね。春亭とかは総合的に見て良い宿だと思います。他には仔牛亭や、南亭もいいと聞いていますが……。一番となるとやはり春亭ですね」


「春亭か…。どこにある?」


「ギルドを出た後、通りを南に行けば分かりますよ。一本道ですから。無理だったら街の人に聞いてください」


「分かった。それじゃあそろそろ行かせてもらう。邪魔したな」


「これが仕事ですから。依頼に行く時に分からないことがあったらまた言ってくださいね」


「ああ」


これで私とリニアス君との出会いはお終いです。

彼は来た時とは反対向きに、今度は颯爽と去っていきました。

ここの雰囲気に慣れてくれたようで安心しました。

他の冒険者がいたらうるさくなっちゃうんですけど。


リニアス君は迷わず春亭に着けたかな……。


……ああ。お節介ですね。





これで今日の日誌は終わりです。


明日からまた頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ