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嘘つきなぼくらのはなし。

作者: 平川 志音


静かな水の音が聞こえる。

ボクはいつからか森の中を走っていた。

エンジンの小刻みな震えと共に、緑を掻き分けて行く。



「この辺で…良いか……

ほら、降りろ」

「ん…――」



眠りこけていた少女の、サイドでゆったりと結った三つ編みが揺れる。

木漏れ日の淡緑色を受けて所々染まっている。


綺麗だ――


思わずため息をついてしまう程に美しい金色の髪を、僕はそっと撫でた。


まるで時が止まったように――


囚われる

奪われる

離せない



「何をじっと見ているのですか?」



可愛らしい鈴のようにに響く声が聞こえ、ボクははっとする。



「い…いや……何でもない」



上擦る声。

ボクは慌ててそう応えると、少女に手を差し延べた。

少女は先程の答え方が可笑しいようで、コロコロと笑っている。



「喉、渇いたろう?ここら辺で休憩しないか?」

「そうですね……。ずっとバイクの振動だけでしたので少々疲れました。どの辺りで休息します?」



そう言われ、景色の良さそうな場所を探す。

澤の流れる音が聞こえるので、水近くが良いな、と妄想する。



「少しだけ歩いてみるか」



その言葉に少女は小さな顔をコクンと動かすと、落ち着いた仕種で立ち上がった。

少女の動きと共に、黄金色の糸がはらはらと解けるように揺れ、光を受けて鮮やかに輝く。木漏れ日を受けた部分との輝きの違いにより、職人の手でつくられた万華鏡のように美しく光と戯れていた。



「行きましょうか」

「……ああ」



また見取れていた為に返事が遅れる。

穏やかな笑みを浮かべる少女の小さな掌をしっかり握ると、ボク達は澤を辿って歩き始めた。







どのくらい歩いただろうか――


澤の小さな水音はだんだん大きくなって行き、轟々と飛沫を上げながら流れ落ちる滝をボクたちは見付けた。



「此処はどうだ…?」



少女は黙って頷いただけだった。

少女の顔には疲労の色が伺える。

それもそうだろうと思う。


長いバイクの旅と共に、沢山歩かせてしまったから――



「これでも飲んどけ。元気になるぜ?」



そう言って少女の方へ、ボクは無造作に一本のサイダーを投げる。

慌ててサイダーに手を伸ばし受け取る少女。

不思議そうに手にしている物を観察し、小さな鼻で匂いを嗅いでいる。

暫く繰り返してから、小さな声で



「ありがと」



と呟いた。

滝の轟音に消されてしまいそうな声だが、優しい音は心地好く森にこだました。

ボクは見せつけるようにバイクのキーを掲げながら、少女の元に届くよう大きな声で



「バイク取って来る」



と伝えて、元の場所へ走って戻った。


早くしないと

少女は何処かへ消えてしまう…――


そういった気持ちがボクを急がせる。

バイクにキーを挿すと、待ち兼ねたかのようにブルルンとエンジンが鳴き、ドッドッドッと唸り始めた。

ギアを回すと、ボクは鉄の馬を趨らせ、緑のトンネルを疾走させた――






少女の居る滝へ戻ると、少女は表情を明るくさせ、パタパタと近付いてきた。



「あのッ…これ……」



少女の手には先程渡したサイダーの瓶が納まっている。

中の液体はまだ半分ほど残っているようだ。

少女は少し間を空けてから言葉を紡ぐ。



「貴方も疲れているでしょう?だからそこの滝で冷やしたの……。迷惑だったかしら?」



少し不安そうに眉を下げ、上目遣いでこちらを伺う少女。

そんな少女のようすにかわいいなぁ、と心中を和ませながら、ボクは少女の善意を有り難く受け取る。



「ありがとうな」



出来る限り爽やかに微笑みながら礼を述べると、ボクは冷えたサイダーを一気に飲み干した。

炭酸はかなり抜け、甘いだけの水が口に広がる。

しかしやはり水分ではあるので、身体の隅々に潤いが齎されるような感覚が駆け抜けた。

半刻ほどして、ボクらは休憩を終え、また宛てのない旅を始めようとしていた。

少女はサイドカーにきちっと身を納め、名残惜しそうに辺りを眺める。



「素敵な場所でした」

「また来れるるさ」

「……貴方の嘘には馴れてしまいました」



少女の辛口なコメントにボクは苦笑いをする。


ボクは『犯罪者』。

少女は『お金持ちの令嬢』。


肩書の違うボクらは、これからも旅を続ける。




ボクは世界警察から逃れるため――

少女は追っ手から逃れるため――




それぞれの自由を信じて旅を続ける。



「……また来ような」





お題主はお母さんだったりします。

少々ありがちなお話でしたが、読んでいただきありがとうございました。

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