愛している…
永遠に思えた時間も、確かめればほんの数時間でもうすぐ彼が帰ってくる時間を迎えていた。
でももう私には取り繕う気力も、精神力も全て残ってはおらず、ただ壁に身を預けた状態で無為な時間を見つめていた…。
「こんな絶望のなかでも神はいない…。結局私は一人きりだね…。」
誰に言うともなしに私は語っていた…。
◇
キィ…バタン…
暗闇に彷徨う時間が極限を迎えたころ…彼が…要が熱と濃密な気配を湛えて帰ってきた。
「おい、どうしたんだ?寝ているのか?」
暗闇の中、いつもと違い迎えに来ない私を不思議がり声をかける。
パチン…
灯りに目がなれ、飛び込んできたのは泥棒にでも荒らされたような見る影もない雑然とした部屋だった。
「っっつっ…。どうしたんだ、これは?! 優子、優子!!」
彼の血相を変え私を探し求める声が聞こえる…。
ドン…バタバタバタバタバタバタ…
「優子!! どうしたんだ?! 無事か?!」
壁からずり落ち、冷たい床に横たわる私を見つけた要は、息を乱し今まで一度も触れなかった腕で初めて私を抱きかかえ顔を覗きこんだ。
彼の外で冷えた冷たくも力強い手と腕が私を抱きしめ、その力強さに促され震えるように目を開ける。
いつもの冷静沈着な顔は姿を隠し、今はその印象的な力強い目が心配と焦燥感をもって私を覗きこんでいた…。
私の視界いっぱいに要の顔が映る…。
(あぁ…なんて綺麗な顔…)
こんな状況なのに私は場違いなことを考える…。
「かなめ………。」
そっと重たい腕を持ち上げる…。宙に浮く腕はゆっくりと用の顔に伸ばされ、頬に近づく…。
腕に気がつき、一瞬ビクっと強張る身体。しかし、刹那に表情を変え要は柔らかい表情を見せた。
「かなめ……………。」
その一瞬の強張りを見なかったことにし、恐る恐る頬に手をやる…。要の表情は変わらず柔らかい。その表情に促されるように彼の頬を包み、撫でる…。
焦って探したからだろうか、そっと浮かぶ汗…。
髪に手をやればそっとシトラスの香りが鼻に抜けた…。
(あぁ…この人を、要をこころから、心から愛している…。)
初めて触れた要から伝わる熱は、愛しさを伝え本当にこの人が大切だと心の底から思った。
「愛してる…。愛してる、要…………。」
ついに我慢できず、ずっとずっと言いたかった千と万の思いを込め彼への思いが私の口からこぼれ出る。
「愛してるの…要…。」
彼は一瞬驚きに目を大きくさせたが、私の顔を胸に抱くように強く抱きしめた…。
初めて抱かれた彼の大きな胸と力強く私を囲う腕に、彼がそこにいる幸せと胸が痛くなるほどの彼への思いをいっぱいにさせた…。
(愛してる、要…。)
あぁ…もっとこの愛しさの熱と囲いの中にいたい…。この人が心から愛しい………。
でも…だからこそ、私は告げなければならなかった。この身を切るような言葉を…。
「離婚…して…。要………。」
彼を解放する言葉を………。