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私のなすべきこと  作者: 睡華
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もう耐えられない……


ドン!! ガタ! バタバタバタバタバタ…


「ハァ…ハァ…ハァハァ…。」





納まらない動悸と荒い呼吸が続く…。


「またなぁ。優子~。また旦那放って遊ぼうぜ~~。 俺、お前逃がさねぇからな。」

気を抜けばあの男の去りかけの私に投げかけた会話が耳によみがえる。

最後に笑顔で言葉を掛けた男の顔は笑っていたが、目は笑っておらず、ずっと私を見ているようだった………。








全速力で逃げてきた足が痛い…。でももっと痛いのは心だ。






私はさっき恐ろしい話を聞いた気がする…。認めたくない事実を…。


この身体の女性は…要をハメて妊娠して結婚した。

要を選んだのはエリートで金づるにちょうど良かったから…。

せっかく出来た赤ちゃんなのに、妊娠中にも関わらず夜遊びをし、男と関わりをも持っていた…。




は…?おかしいよ…。ちょっと待って?なにそれ? 


「嘘よ!私は信じない!!」





あの男の口から告げられた事実が痛い…。見も心も…痛い。

頭がおかしくなりそうだ………!!

要に恋したことも、ここ暫くの幸せも全て粉々になって手から零れ落ちていくようだった。








座り込んだ時に投げ出した買い物たちが目に映る。

胎教に良いCD、用が好きだと確信した揚げだし豆腐の材料…、育児雑誌…。


その全てが嘘だった…。

嘘だったなんて…………。




うっすらとぼやけた目をしながら立ち上がる。


「嘘よ…ウソ…。

信じない、私は信じない…。」


目をキッとさせ、さっきの事実を嘘だと、要と育んできた幸せを証明するために…、私は前のめりになるように家中を探し始めた。












◆◆◇◇







本棚にあるアルバム、パソコンにあるデータ、DVDなど、私は2人の思い出に関わりがありそうなものを…ありとあらゆるものを調べた。調べ続けた…。





でも…なかった。


旅行先やデートで撮ったかもしれないと思ったアルバムやDVDは一つも見つからず、あったのは結婚式の時の写真だけ…。


思い出の品も探したが、該当しそうなものはなかった…。





「ない…。ないよぉ…。要…。」







力が入らず、肩を落とす私の最後の希望となっていたのは、目の前に鎮座するこの身体の女性が使用していたと思われる携帯電話だった。


あの日のバッグに存在を忘れられたように入っていた。

…あの日から数ヶ月ぶりに電源を入れる…。



電源ボタンを押すとぼぉっと明るく灯りはじめ…


何処かのブランド系の待ち受け画面が浮かび上がる…。










ピ、ピ、ピ、ピ………



ケータイを操作しても、誰か男の人と写っている写真があるわけでもなく、普通のデータだった。

でも…いくら調べてもメールや電話の送受信履歴は消えており、メールのデータも綺麗に一つも残っていなかった。


それが逆に異様で…不信感を強く抱かせた……。








どうしよう…。あの男の言葉だけで信じるのは嫌だ!!

誰か…誰か…聞ける人は………。



すがる気持ちで思いだしたのは、あの私にとって偽者の家族で食卓を囲んだときの会話だった。



~~~~~~~~~~~~~


「これで美樹ちゃんもいたら家族全員揃ったのにね。美樹ちゃん大学の方が忙しくて、帰って来れないんだって。

久しぶりにお母さんの料理食べさせたかったのに残念だわ。

ゆうちゃんはちょくちょく帰ってきてくれたけど、美樹ちゃんは大学へ入って一人暮らししてから全然になっちゃったわね…。」



~~~~~~~~~~~~~



そうだ…。妹、美樹さん…。

このひとなら…詳しく知ってるし、最悪バレても身内だからなんとかなるかも………。






疲れた頭で正常な判断力を無くし、危険な賭けを知りながら、妹の美樹という女性に電話をかける…。


強く押したボタンから発信され、よく聞く待ち受けの音が鳴り始める…。









出ない…。焦る気持ちから何回もかけていたが、それでも出なかった。

今日は諦めようか…そう思い始めていたとき   プツっと音が消え 繋がった…。



「………。」

「……………。」






お互いに何も話さず、無言が続く…。

意を決して、話し始めようとしたとき、電話口から相手の冷めた声が耳に入った。




「何か用?」

「あの……。」




言葉がつまる…。そんな私を意に介さず言葉は続いた。


「あぁ、用はあるわよね。

あんた用がないと、私なんかに掛けてきやしないものね。それで今度は何?

また男と遊ぶからアリバイ作れ? それともお金を貸せ? それとも私にまた面倒な男でも押し付ける気?

大学へ入って、あんたから逃げようとしたってあんたは私の都合なんか構わずにアレをしろ!これをしろ!

もううんざりよ!!!


せっかくここ暫く連絡がなくて、やっと開放されたと思ったのに!!






私もウソをついて、あんたを誠実な人間だと言葉で飾り立てて、信頼させ、罪悪感すら捨て去ってあんたが旦那を捕まえるのに手伝ってやったじゃない。

もう欲しかったものは手に入ったでしょ! 私は親や心まで捨てたんだ。いい加減私の人生を返して!!」




プッ…。ツーツーツーツー。

冷めた声は最後に怒声に変わり急激に終わりを告げていた………。


(今のはなに…? さっき掛けたのはこの身体の女性の…実の妹…だよね…?

それが…それが…………。)


保たせていた力が抜け、身体から力が抜ける。







美樹との会話は私を真っ暗闇の中に落とした。あの男の語った事実と変わらぬ内容…。乱れた生活…。

そして実の妹に恨まれている事実………。




彼女との会話でも、この女性の優しさや要との日々は存在していなかった。

最後の…最後の希望が今目の前でくだけてしまった…………。












男の会話、見つからぬ証拠、実の妹すら利用し、恨まれている事実が私を…追い詰めた。認めたくなかった…。

要に愛されていないことを…。






認めたくなかった…!






でも…、思い返せばおかしく思う点はいくつもあった。


仕事帰りの彼を起きて待っていたときに訝しげに見られたこと。

彼に初めて夕食で手料理を出したときに一瞬躊躇した手…。

一通り揃っているのに一回も使われた形跡がなかった調理道具。

抱きしめてくれないこと…。

弾まない会話…。

避ける身体…。 

笑顔を一回も見たことがないこと…。


わかってた…。




私…ずっと…ずっと気づきたくなくて、認めたくなくて…目を逸らしていたんだ…。






どうして認められよう…。





知らない世界、重ならない常識…。知らない家族、宿っていた命。


その全てを受け止めて、夫となった人に恋して、やっとここで生きていけると思ったのに。

生きていこうと思ったのに…。


その全てがウソだったなんて…。







私は縋っていたのだ…。要とこの身体の女性が育んだ愛に…。

この世界で唯一頼れると、信じてけると思った要に…。


勝手に恋して、無意識に愛そうとして愛し、それを免罪符にして縋っていたのだ…。



もう…もう限界だった………


「どうして…。私が何をしたっていうのよ! 大学まででて、平凡ながらも家族に囲まれて…それなりに幸せに生きてきたのに!! 家族が大好きだったのに…。大切な友達もいたのに…。

その全てを奪われて…、こんなおかしな状況に放り込まれて…、やっと信じたものがウソ幻だったなんて!!

なんで…なんで私なの…!? もう嫌だ!もう頑張れない!!帰して…、私を元の世界に帰してよぉ!!帰して!!」



力いっぱい叫ぶ。私をこんな状況にした何かに。天にまで聞こえるように。聞かざるえないような叫びをあげて…。

吼えるように、泣き叫び、叫び続けた………。

この心の叫びを………。


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