腕の中
これがお正月の手持ち無沙汰を慰めるものになれば幸いです。
今年が皆様にとって素敵な一年でありますように…。
一瞬言葉が出なかった。恨みや信じられないと言った感情は嘘じゃなかったからな。
でも、考えより先に言葉が出た。
『愛してる。』」
そっと頭の上から降ってくる言葉に体が震える。
要は震えた私にさらに熱を移そうとでもいうように抱きしめる腕に力を込め再度言った。
「『愛してる。』」
止まりかけた涙が堰をきったようにまた溢れ出す。
耳をつけた要の胸からは少しはやまった心臓の音が聞こえる。
「わかるだろ。心臓がどきどきしている。この年になってこんなどきどきなんて言葉言うとは思わなかったが、お前には丸聞こえだからな。取り繕っても仕方ない。」
要は肩の力を抜いたように、言葉に笑を含ませながら私の耳に囁く。
「美樹に『愛してる』と言えた自分がどんなにお前を愛していたか初めて思い知ったよ。
美樹も何か感じたんだろうな。一瞬黙ってこう言った。お前の居場所を知っていると。
すぐに反応した俺を制するように美樹は続けてこう言った。
『知っている、だがあなたには教えることが出来ない。』と。
俺は教えてくれと迫ったさ。でも美樹はガンとして教えなかった。
『私はあなたがまだ知らない事実も知っている。
優子…いやあの人は今前より幸せそうだった。
あの人はあの人でずっと悩んで苦しんでいる。
もしかしたら、このまま向き合わない方が幸せなのかもしれない。
やっとあの人でいれる居場所を見つけたのに、また元の場所に戻したら…
。
私が判断することじゃないのはわかっている。でも、あの人があんまりにも苦しそうだから…。
自分のままでいて欲しいの…。』
と美樹自身苦しそうに言ったんだ。
それを聞いたらもう何も言えなくて。
ただお前が心配だ、といったらじゃあ私が見てきて知らせると言ってきた。
それからはぽつぽつとくる美樹の電話からお前が頑張ってること、お腹の子ともども元気なことを教えてもらった。
美樹はまるで俺を試すかのように聞くんだ。
『愛してるか?』って。
俺は定まらず浮ついていた気持ちが美樹からのお前の状況、そして質問に固まっていった。
俺は覚悟を試されているんだと勝手に思ったんだ。
ずっとなんとなく来ていた此処へのお参りもお前が家を出てから…それ以上の気持ちを込めてした。
お前に会えない寂しさも、歯がゆさも、お前の傍にいれない自分への悔しさも全てを込めてな。
そして、今日ここで会えた…。お前は今俺の腕の中にいる…。」