見知らぬ家族
「良かった。ゆうちゃんがなかなか帰ってこないから心配したのよ。具合悪くなってたんなら言ってくれれば良かったのに! 要さんが見つけてくれて良かったわね。」
「うん…。」
私は具合の悪いふりをし、私に話しかける女性に返事をする。
◇◆◆◇◇
具合が悪いと彼に抱えられるようにして事務所を出た私を待ち構えていたのは、駐車場で待つ見たこともない老夫婦だった。
「ゆうちゃん!!どうしたの?!」
「大丈夫です。義母さん。どうも具合が悪くなったらしくて…。なぁ、優子?」
「うん…。」
彼は先ほどのことは無かったかのように、具合を悪くしたのを介抱するのを装う。
彼の配慮にこのとき感謝した。もし、この時突っ込まれた質問をされても私は返事も出来なかっただろう…。
私が頼り心の拠り所になる家族は私の見知った家族ではなかったのだから…。
◇
頭は締め付けられるように痛く、視界はぐるぐると回り焦点が合わせられない。
自分の安全のための選択が、間違っていたのではないかと迫り続ける。
この夫…らしい人と、この両親…らしい人と私はこれからどう、ぼろを出さないように付き合えばいいのか?
ぼろが出て、真実が突きつけられたとき、この人たちはどういう反応をするんだろう…。
この妻…娘の皮を被った別の人間を…。
知らない両親から慈しまれる視線を居心地悪く感じる時間も短く、車は目的地に着いた。
普遍的な住宅街のなかにある、白いどこにでもある一軒家。ここが実家らしい。
「要さん。運転有難う。まずはあがって運転の疲れを取って頂戴。」
母らしきひとは義息子を労わり、女主人として場を仕切り始める。
「有難うございます。」
如才ない顔をした彼は、笑顔を向けた。
父らしき人は無口らしい。彼に軽くうなづき、家に入っていった。
私はこの白い家を凝視するように見つめ、一歩も動けずにいた。そんな私を一瞬いぶかしるように見て、2人は家に入っていく。
虎穴に入らずんば虎児を得ず。私は覚悟を決め、家に入っていった。
◆◇
見たこともない廊下…。部屋…。そのあちこちには私のしらない身体の私が沢山の笑顔を浮かべ、家族と並んで写っていた。
両親、私、妹らしき女性…。家には家族の記憶が溢れていた。そこで初めて私はこの身体の私を思った。
彼女は何処にいったんだろう…?
彼女の皮を被った私…。彼らから見たら、私は彼女の身体を奪った極悪人だ。
責められるのはイヤだ。辛いのは…嫌だ。真実を知った彼らが私をどうするのは想像もつかず、私は恐怖で小さく震えた。
「ゆうちゃん。手伝って~。もうこの時間だからご飯にしましょう。」
真実をしらない母らしき人は私に笑顔を向け、幸せそうな顔をして台所からお玉を振り回し呼んだ。