始まりの場所
これで最後の道筋が出来ました。
これからの展開は賛否両論あるかと思います。
妊婦の知識もなく、ありえない展開が続くこともあります。
もしこの文章を読んで、気分を悪くされることが予想されるようでしたら読まないことをお奨めします。
これしか書けないですみません。
臨月を迎えた私はまだ変わらずこの街にいた。
「ボロイアパートで良けりゃ、気にせず住んできな」
と静也の言葉をいやみっぽく笑いながら言う女将さんの言葉に甘えて。
大きくなったお腹を抱え、今日は久しぶりに遠出をしていた。
あの全ての始まりである…あの神社に…。
◇◇◇
「よいしょ、よいしょ。」
やっぱりお腹を抱えながらの参拝は少し無理をしてしまったかもしれない。
じっとりと噴出す汗とそれを拭う気持ちよい風、そしてかすかに聞こえる川の音。
あの時恐怖の全てだったこの場所が、今は全く違うものに思えた。
赤い朱塗りの鳥居を抜け、白い砂利を一歩一歩進む。
目の前に近づく神社は私を待っていたかのように、そこに在った。
「全てはこの場所から…。」
きっとこんな緊張した気持ちでこの場所に立っているのは私だけだろう。
でも、私にはこの儀式が必要だった。
私は恐れていたのだ…。
女将さんや仲間、働く場所、住む場所がある今の幸せな状況を。
ずっと、ずっと…苦しかったから…。
でも、それよりも私が恐れていたのは私が死ぬこと、または赤ちゃんが生まれてこないこと…。
まがい物の私が果たして、この世界の赤ちゃんを産むことを果たして許してもらえるのだろうか。
私が死んでも赤ちゃんが生まれてくれば、まだ良い。
でも、私とともに赤ちゃんが死ぬこと、または赤ちゃんが生まれてこないのではないかと…怖かった。
私のせいでゆがめられた出生をする赤ちゃんを守る術を私は全く持っていなかった。
もう、すがるしかなかった。
許しをもらうしか…。
女将さん、香苗さん、果ては板長まで水天宮でお参りし、安産祈願のお守りを与えてくれた。
それも大事に持っている。
でも、私はここで安産祈願をしなければ…と思ったのだ。
始まりの…ここで…。
◇
橋を渡り、神楽舞台を越えた場所にある場所にある空気は静謐で、静かだった。
覚悟をもって来た筈なのに…一歩が出ない。
目の前にあるのに。
定まらない覚悟で動けない私を動かしたのは、意外な人物だった。
「あんた、あぁあんた桐生さんじゃないかい?」
久しぶりに呼ばれた名前にとっさに反応することができず、遅れをとって振り向いた先には水色の袴を履いた男性が立っていた。
誰だかわからず、一瞬静也の件を思い出し身構えるが、彼は私の脅えなんて関係ないように驚きの言葉を口にした。
「良かった。あんた元気だったんだな。もしかしたら具合でも悪いんじゃないかってずっと心配してたんだ。
旦那さんに聞いても毎回聞くな!って感じの微笑で終わっちまうし…。
儚くなりそうなんじゃないかってずっと皆話してたんだぜ。」
「えっ?」
一瞬なんの話をされているのか全くわからず固まってしまう。
そんな私に気づいたのか慌てて彼は言葉を重ねる。
「あぁ、すまん。あんた美人だし、あんたとは出会いが強烈だったからね。俺はずっとあんたのこと覚えていたけど、
あんたは俺のことなんて忘れているよな。
旦那とは毎月のように会っているから、なんかあんたのことも知り合いのように感じてしまってな。
言葉が足りずすまなかった。
俺はあの時あんたを解放した神社のものだ。禰宜っていうんだが、それはいいか。
あんたがトイレで震えているときに介抱した者なんだが覚えてないかい?」