きもち
「なんだよ!!なんだよ!!」
言葉につまり、私を見なかった男が初めて私を見る。
「俺は…俺は…。」
下を向いたままの私には男の表情を伺い知ることはできないが、男の声は震えているよう搾り出されているようにに聞こえる。
「顔をあげてくれ、優子…。
俺は…ただ…お前が心配だったんだ。
さんざん一緒に馬鹿やらかしていたお前が結婚するっていって、なのにいきなり連絡が取れなくなって…。
やっと会えたら、全くの別人のお前になっていた。
あの旦那に暴力でも振るわれて、お前が変わってしまったのかと思った…。
ずっと気になって…。
ツテを頼ってやっと調べたらお前は家を出て行方不明、旦那には新しい女が出来ているって聞いて…。
もうどうしていいかわからなくなった…。
お前が家族と上手くいってないのもわかっていたからな。俺だけは探してやろうって思った。
本当…、ずっと…ずっと探したんだ。
ただ…やっと見つけたお前には新しい居場所が出来ていて、見たこともない顔で笑っていて…。
あのころの馬鹿やらかしてたころにあった寂しさが埋め込まれた笑顔じゃなくて、暖かい笑顔だったから…。
出て行かないほうがいいんじゃないかって…思ったんだ。
なんども、もう俺の入る幕じゃない。来るのはよそうって思った。
ただ、重そうな腹を抱えたお前があのボロイアパートに帰るのと見る度、なにかあったら…って思ってしまって。
俺の出来ることなんてなんにもないのに…ただ来てしまったんだ。
お前をこんなに追い詰めているなんて 知らなかった。
ただ、自分の都合で良かれと思ってしたことが……。
逆効果になって…こんな結果になって…。
俺の方こそ…本当にすまん……。」
そっと上げた顔から見えたのは、軽そうな外見からは想像できないほど、真剣に謝る男の姿だった。
顔は下を向き、その表情をうかがい知ることは出来ない。
でもその気持ちは伝わってくる…。
(そっか…。みんな…皆…ただ不器用なだけかもしれない…。)
この男の言っていることが本当かはわからない。でも信じたい。私はここで信じる強さをもらったから。