気づけなかった仲間
耳元で何か水の音と、誰かの話し声がする…。
額に置かれた心地よい冷たさにそっとつられるように目を開ければ、知らない天井が広がっていた。
(どこだっけここ…?)
回らない頭で考えていたら、
「気がついたかい?」
いつものきっぷの良さを隠し、眉根をよせた女将さんの顔が広がった。
「あっ!」
自分のしでかしたことに青くなり、慌てて起きようと身じろぎをする。
女将さんはそんな私を抑えるように布団をかけ直し
「まだ、寝てなさい。」
と優しく落ちた冷たい濡れタオルを額に置きなおしてくれた。
申し訳なさに布団を口元まであげ、辺りを見渡すと女将さんと板長、仲の良い同僚の香苗さんまでがいた。
「あ…皆さん…料理長や香苗さんにまでご迷惑おかけして…本当に申し訳ございませんでした。」
なんとかしようとしていたのに、結局沢山の方にご迷惑をおかけした自分が不甲斐ない…。
私の心情を見透かしたように、普段無口な板長が
「いいんだ。いつも良くやっているのは皆わかっている。気にするな。」
と声をかけてくれる。
ちゃんと喋ってくれた板長が信じられずついついマジマジと布団から覗き込んでしまう。
そんな私を可笑しくてたまらないというふうに
「板長がそんなこというからさやちゃんが驚いていますよ。」と茶化しながら
「さやちゃん、大丈夫。板長がおっしゃったように皆さやちゃんが真面目に頑張って仕事してるの知ってるから。
ときには、弱音を言って頼ってくれていいんだよ。」
と優しく言う。
「そうだね、あんたはちょっと頑張りすぎだ。もっと弱音を言ってくれないと頼りがいがないって言われているみたいで高尾の女将がすたるってもんだよ。」
と女将さんものる。
「あはは、すたるって。そんな…。」
女将さんの言いようが面白く、つい笑いが口をつくが、それも震える涙声に変わる。
「……すいません…、すぐに泣きやみますから。すぐに…すぐに…。」
今まで本当のことを言えず見限られるのが怖くて、ついつい働く仲間にさえ触れ合うのを避けていた。
そんな自分を腫れ物に扱うようにしていたのに寂しさは感じたが、自業自得だと納得し働いてきた。
こんな…こんなふうに自分を見ていてくれたなんて、知らず支えていてくれていたなんて思ってもみなかった。
こんな優しい言葉をかけてもらえるなんて…。
必死で止めようとする涙は言うことを聞かず、次からつぎへと零れ落ちる。
そんな自分を不甲斐ないと思いつつも、この優しさに包まれた空間で涙は止まらなかった。