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私のなすべきこと  作者: 睡華
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悪戯





久しぶりにあの街からでたけれど、あっという間にお使いは終わってしまい私は降って沸いた休日を楽しんでいた。






日本有数の繁華街ということで、人が多く、久しぶりの人の大群に思わず目を見張ってしまったが、すぐに慣れた私は女将さんのご好意に甘え、久しぶりに洋服を買っていた。







あの時持ってこれた洋服は本当に限りがあり、この季節に似合わない洋服を頑張って着る私はまさに着たきり雀に見えていたのだろう。




お金も大切だが、女将さんたちにご迷惑かけないような生活にしなくちゃと反省した。










こうやって買い物していると、要と生活していた日々が遠い昔に思えてくる…。





あの時は子どもの洋服や胎教CDはもちろんだが、要の健康を思って、食材や、着てくれるかな…と洋服を買っていた…。

心から落ち着いた幸せではなかったが、でも決して不幸せではなかった。

そばにいれる…幸せがあったから…。









未だに部屋の片隅に置かれたかばんの底の思い出の品には触っていない…。




触っていないのではない、正しくは触れないのだ…。





もし、触ってしまったら…頑張れている今の私が崩れて二度と立ち上がれなくなりそうで…怖いのだ。




今の私はピンと張った糸の状態で、何か少しの衝撃を与えるだけで切れてしまいそうなくらい…ギリギリだった。




(情けないな…)

私は自分から要を解放したくて離れたはずなのに、未だに求めてしまい一人で立てていないようだ。





お腹に手を当てると、あの頃より存在を感じさせるこの子が確かにいる。


(私にはこの子がいる…。要のことは考えない。


そういえば…私のことを聞きまわっている人って誰なんだろう…?まさか美樹ちゃんが両親に言ったのかな…?)

思い当たる人がおらず、広がる疑問と少しの寒気に襲われる…。



(誰…だろう?)

猜疑心と落ち込む気分を無理やり意識を振り切り、今度は生まれてくるこの子の為の買い物をした。



私にはもう少しでかけがいのない存在が生まれてくるのだから…と。





























それを見てしまったのは…神様の悪戯としか言いようがなかった…。

あの日、あの時、あの場所にたまたまいたなんて…なんて偶然だったんだろう。

でも、確かに見てしまった。

女性の肩に手を回し歩く…要を………。



















「もうこんな時間…。そろそろ女将さん心配させちゃうし帰らなきゃ。」

癖になった独り言を呟き、賑やかな店から夜の帳がおり始めた街へと踏み出す。



夜の繁華街は昼間の家族連れの風景を一変させ、寄り添う恋人たちの街へと変わっていた。

微笑みあう恋人たちの群れに、わくわくと女将さんたちへのお土産とお土産話を持った私は目を向けずに歩いていた。











あと少しで駅だ。








そう思いふと、反対側のお店に目を向けたのは何故だったんだろうか…。











目を向けた反対車線の歩道に彼は………いた…。











要…だった。

暗くて表情までは見えなかったが、要は待ち合わせをした女性の肩に手を回し店へと入っていった。





たった数分…。

私は微動だにせず…目を離せなかった…。










久しぶりに見れた要の嬉しさと…、横にいる女性に…言葉に表せない気持ちがうずまく。



(要…痩せてた…。)




久しぶりに見た要は前よりも輪郭をシャープにさせ、より印象を冷たくさせたようだった。




(ハッ。もう私は奥さんじゃないのに…。)

痩せた要を見て健康を心配する自分が嫌だった。もう、要には健康を心配し、そばにいる確かな存在がいたのに…。

私が離れて数ヶ月…。






(要は…やっと傍で落ち着ける人がいるんだ。)







要の幸せを喜ぶ気持ちと、今でも心の奥底にはびこる要への思い…。

完全に違った二人の道…。もう…交わることのない道…。








(私は要と、私のために振り返らない…。)

私は再びお土産を抱えなおし、帰途への道を歩き出した。

なぜか、軽いはずのお土産がとても重く感じた…。






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