転
※お知らせ※
改訂を行い、主人公の名前を
緋佐子→優子
用→要
に入れ替えております。
また、13章の終わりから物語を書き換えて直し改訂をしています。
前から読んでくださっている方には大変ご迷惑をおかけします。
どうぞ宜しくお願いいたします。
2月22日 改訂
あの長い夜から一月という時間が過ぎた…。
未だにあの約束は果たされず、彼女もここに現れない。
私は彼女の住む場所も連絡先も知らず、彼女もここしか私に会えない…。
それでも、(いつか会える)そんな気持ちが消えることはなく今日も私は仕事に精を出す。
気が合う同僚、優しい女将さん、順調な仕事…、この子を抱えたまま働くリスクは常に頭にあり消えなかったが、この子との生活を守るため一生懸命働いた。
あの絶望の夜からもう…一つの季節が巡ろうとしていた…。
◇
「さやちゃん、悪いんだけどこの仕出しをお得意様のとこまで届けてくれない?」
日中の忙しさも一段落したころ、困った様子の女将さんに声をかけられた。
「はい、いいですよ。どちらまでですか?」
「あのA駅の飯島様の事務所までなんだよ。」
「珍しいですね、お届けなんて。」
急なお使いにいつもと違うことで不思議に思う。
「なんでも、お客が来てどうしても必要なんだってさ。まぁ、古いお付き合いだし。特別料金ふんだくってやるさ。」
口では文句を言いつつも、顔は仕方ないなぁと内容と表情の違いとお客様の要望を聞く女将さんの姿は度量と人間の大きさを感じさせて、思わず笑みがこぼれる。
「すぐにお届けですか?」
「あぁ、仕出しの準備は出来ているから宜しくね。そのまま今日はお休みあげるから。予約も空いてるしね。せっかく繁華街行くんだから何か自分のもの買っておいで。いつまでも着たきり雀でいるんじゃないよ。」
と、交通費とともに幾ばくかの心づけを握らされる。
「女将さん、いけません!!こんなに良くしてもらってるのに…。」
「私がしたいからしてるんだから気にしない、気にしない。」
「そんな…。」
「あ、あとこんなときに言うのもなんなんだけど…、最近この近辺でさやちゃんのことを聞きまわってるヤツがいるんだって…。何か心当たりないかい?」
「えっ…。」
いきなりもたらされた情報にどう反応していいかわからない…。
「まだいるらしい…ってぐらいで、そんなさやちゃんをお使いに出すのもどうかって話なんだけど、閉じこもってばかりじゃその子の為にも良くないしね。」
そっと女将さんはお腹に視線を向ける。
まだ受け取れないという表情の私を急かすように
「ほら、飯島様の約束の時間がきちまうから。さぁ、行った行った!!」
と追い出されてしまった。
仕出しを受け取り、後ろをちらっと振り返ると女将さんが目元を下げて見送ってくれていた。
(有難うございます…。)
そっと、女将さんに頭を下げ私は久しぶりの外の世界へ歩き出した。