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私のなすべきこと  作者: 睡華
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長い夜の終わり



どれくらいの時間が経っただろう…。

私の涙が果てるまで彼女はそこにいてくれた…。






涙が止まった私を確かめるように顔を見た彼女は


「ひっどい顔。せっかくの顔も台無しね。あ、ちらちらあんたを心配して見に来る人達がいたからちゃんと誤魔化しなさいよ。

私が泣かせたと思われてさっきから、すごい視線で睨まれてるんだから。」


そんな茶化すような言葉に反応し入り口を見ると、美津子さんや、女将さん、仲のいい同僚がこちらを見ているのが見えた。


私と視線が会うと、覗いていた始末の悪さと心配げな視線を投げかけられ、笑顔で応える。それに安心したのか、皆は引っ込んでいった。




「そういうとこだけ見ても、あいつとは違うわね。あいつを心配するやつなんかいなかった。上辺だけ。あいつも好んでそういう付き合いだったみたいだけど…。あんた、大切にされてるのね…。」

皆の気持ちが嬉しくて…、そう言ってもらえたことも嬉しくて…ただ黙って首肯した。









ただ視線が重なる。



何か言いたくても…、なんて言ったらいいかわからなかった。



なんども口を開こうとするが、言葉は出てこない…。

そんな私を振り切るように彼女は立ち上がる。




「そろそろ、帰るわ。明日も用事あるし…。」

「そう……、あ、暗いしタクシー呼んでもらうわ。」

「いいわ、自分でするし。」



そんな彼女に気おされるように何も言えない私に彼女が初めての表情で

「あと、これお会計…。」

とそっと気まずげにだされたお金を慌てて断る。



「いいのよ。私がもつって言ってたんだし。」

「はい、そうですかっていうのもね。それにあんたもその子の為にお金は必要でしょ。」

そっとお腹に視線を投げかけ、お金をおく。



「………。」

そんな心づかいが嬉しくて、これ以上言い合うのも決まりが悪い私を見透かすように歩き出す…。





身支度を整え足早に出口に向かう彼女。

何か言わなきゃ、言わなきゃと焦るが言葉が出ない!





行ってしまう!焦りからでた言葉は大声になって口から出た。

「また、会える?」




一瞬身体をビクつかせ…、動きを止める…。

何も応えがない…。









(やっぱり会いたくないよね…。)




諦めようとしたとき…、小さな声が聞こえた…。

「まだ…、全部納得できたわけじゃない…。今でも、その顔を見ると嫌な思い出と汚い感情がこみ上げてくる…。

でも…、何も知らないまま否定したくない…。あんたと…、また話してみたいと…思う……。

だからまた…来てもいい?」

それは一生懸命耳を傾けなければ消えてしまうような声量だったけど、私にはなによりも強いものとして入ってきた。




一瞬信じられず、言葉を疑うが、その言葉が消えてしまうのを恐れるように間髪いれず返事をする。



「うん、いつでも、いつでも来て!!」

「あはは、あんた勢い込みすぎ。いつでもいいわけじゃないでしょ。また、こうやって話す…かもね。」

「うん…。」



彼女は力を抜いた声で、でも否定はせずに会える未来を言った。




「じゃあ、ね。」

立ち上がり歩き出す…。




「うん…、本当に有難う…ね。」

彼女はそのまま振り向かず、前だけを見て去っていった。









また、いつ会えるかはわからない。もしかしたら、口約束だけでこのまま会う機会はないかもしれない。

でも、私の胸に彼女の言葉と彼女と会える約束は強く残り、きらきらと輝いていた。

長い夜だった。でも、一生忘れられない夜になった。





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