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私のなすべきこと  作者: 睡華
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謝罪


滴り落ちる水滴をそのままに、お腹をかばう様にその場で頭をさげる。




「本当に、本当にごめんなさい…。」



「あっ…、お腹…。」

そのお腹をかばう様から身重だという事実を思い出したのか、視線をはずしきまづい雰囲気がでる…。



「私こそ、興奮していたからってやりすぎてごめんなさい…。」

「いえ…。」



こんな状況でも相手を思いやれる彼女は本当に優しいと思った。だからこそ、両親のために怒り、このように正直に怒れるのだろう…。






視線を下に向けたまま水滴をぬぐう。

沈黙が部屋を支配する。










ふと…、言ってみたくなった。本当のことを…。この優しい彼女に…。






水滴をぬぐい、視線は下に向けたまま口をひらく…。





「ねぇ、世迷言だと聞いて。本気にしなくていいから。話聞いてくれないかな。」

彼女から応えはない…。でも、否も部屋を出て行く雰囲気もなかったことに背中をおされ話始める…。




「ねぇ、信じられる?私気がついたら、記憶がなかったの…。桐生優子だってことも、松田優子だった記憶も両親もあなたのことも、もちろんこの子のことも…。」

お腹に手をあて、話をつづける。





「気がついたら、桐生綾子だった。桐生要っていう旦那さんまでいるのに、私にその記憶も自覚も全くないの…。

もっと恐ろしいのは、記憶がまっさらなのではなく、別の人格の記憶があったこと…。飯田彩夏っていう人物の記憶が…。」

反対側から息をのむ声が聞こえる。




それには気がつかないふりをして言葉はつながる。





「私は飯田彩夏で昨日まで生活をしていたのに、今日からいきなり桐生優子になった。顔も違う、家族も違う、嗜好も違う。怖くて怖くてたまらなかった。本当言えば今でも受け入れられない。何度夜を明かしても私は私に戻らない…。


それどころか、今度は罪深さに脅えるようになった…。私はこの桐生優子を乗っ取った略奪者だ。この身体の女性から身体も家族も人生も奪い取った。今優しい笑顔を向けているこの優しい人たちは真実を知ったらどう思うだろう…。


バレちゃいけない。バレるわけにいかない!必死に取り繕ったわ。でもそうして嘘を重ねていくうちに、この女性の本性が見えてきたの…。妹を利用して…、要をハメて…結婚して、桐生優子は妹にも旦那さんの要にも憎まれていたわ…。


桐生優子として生きるのが余計に恐ろしく感じたわ。そしてもっと愚かなことに私は…要を愛してしまった…。絶対に私を見ることもなく、憎まれて愛が生まれるはずもないのに…。」









一息で言い切った私に掛かる言葉はない。

私も期待していない、これは独白だ…。




「何考えてるの?って言ったわよね。お察しの通りよ。要を愛してしまったから、要に憎まれ続けるのが怖くて、要をこの結婚とこの子から解放してあげたくて。自分の思いだけで行動したの。


桐生優子の両親には頼れなかった。

私の親じゃないから…。一人で生きて、この子を育てたくて…、今こうしているの…。

でも、本当に自分本位だったわ…。沢山ご迷惑おかけして…、本当にごめんなさい…。


桐生優子を奪って…ごめんなさい…。私が謝罪しても、意味がないかもしれないけど…あなたを傷つけて…本当にごめんなさい…。」

ゆっくり頭を下げた。






机をはさみ、見えなくても、頭を畳にこすり付けるくらい頭を下げた。

私に出来ることはこれしかなかったから…。

必死に頭を下げた。下げ続けた…。




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