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高いアンテナ  作者: 薄桜
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夜中の探検行

次の日の夜俺たちは、こっそり家を出て昨日と同じ自動販売機に集まった。

今日も羽虫たちは元気一杯で迷惑だ。

情報収集には失敗してしまったので、状況的には6年前と大して変わってない。よく分からない場所を目指す事については、結局あの頃と何ら変わらない。しかし、徒歩からエイプに二人乗りになったのはとても大きく、飛躍的な進歩である。

借りたヘルメットを被って、小気味良いエンジン音を轟かせるエイプの後ろに乗り込んだ。

前回は駐在さんに見つかって助かったが、今回は逆に窮地に立たされる破目になる。

だから俺たちは、夜陰に紛れてこっそりと冒険に出かけた。


闇の空に浮かぶ赤いライトの光を目印にして、隣の町へ続く道の途中にある細い道に曲がった。

何故なのか分からないがその道は正しいと感じ、段々と近付いているという感覚がある。

これは既視感だろうか?

「何かここ、覚えがあるよな!?」

エンジン音と、風を切る音に負けないように声を張り上げると、

「みっくんもか!?」

と、コウちゃんも同じように感じていた事に、俺は更に驚いた。

何となくの感覚は道が広くなって更に強まり、進めば進むほど徐々にと確信に変わっていった。


もうすぐそこを曲がれば・・・という所でコウちゃんはバイクを止め、用心深く口を開いた。

「・・・確か、ここ曲がると入り口とフェンスがあるんだよな?」

「そうだ。この道を塞いでる、ずーっとでっかいのがな。」

「その先にはでっかいアンテナがあって、赤い光が点滅してるんだよな?」

「そう。外灯の点いた建物がいくつかあって、その向こうにも何か色々たくさんアパートみたいな建物があるんだ。」


・・・俺たちは、どうして知っているのだろう?

エンジンの音に紛れて話した事は、どこか霞がかったような記憶の中にある。

小5の時の冒険は、見事な失敗に終わったはずだ。俺たちは、こんな所に来た事は無いはずなのに・・・。

寒くも無いのに鳥肌が立つ。まったく気持ちが悪くて仕方が無い。

俺が先に降りると、コウちゃんはエイプを脇に寄せてエンジンを止めた。

ヘルメットをバイクに残して前に向かって歩いて行くと、道の曲がった先には記憶通りの光景があり、二人して息を飲んだ。

「ひょっとして俺たち・・・あの時にここまで来てたのかな?」

「ひょっとしたら・・・だったりしてな。」

じゃぁ・・・何故俺たちの記憶が違うんだ?

不可解な事態に空恐ろしくなり背筋がゾッとしたが、せっかくここまで来ておいて引き返せる訳が無い。

コウちゃんと顔を見合わせて無言で頷き合うと、俺たちはフェンスに手をかけてよじ登り、向こう側に飛び降りた。


  ◆◆◆◇


目が覚めると真っ暗だった

ここがどこなのかという疑問の前に、いつ意識を失ったのか、何故意識を失ったのかすら分からない。

頬に触れる感触はひやりと冷たく、硬いザラリとしたこれは、おそらくコンクリートの物だろう。

とにかく体を起こそうとしたが、腕と足は思うようは動かず、縛られている事に気付いた。

何だ・・・一体俺はどうなったんだ?

コウちゃんはどこだ?

見回すと、離れた場所に赤い小さな光が1つあるが、他には何も見当たらない。

何かの機械の低い音が唸るように響くだけで、他には音も聞こえない。

「コウちゃんいるか?」

俺同様に、傍に転がされている事を期待して声をかけてみたものの、返事は無かった。

もし気を失っているのでなければ、この暗闇の中にはどうやら俺一人だけらしい。

状況も分からず、理由も分からず、もちろん時間も分からない。

不安は膨らむ一方で、嫌な想像ばかりが頭を過ぎっては、更に不安を掻き立てる。

マジここどこだよ!?

俺、今どうなってんだ!?

「オイっ! 誰かいないのか!?」

俺を捕まえたヤツがいるのなら、おそらく暴れるのは得策ではない。でも、ずっとこの状況に置かれている事には、とてもじゃないがもう耐えられない。


しばらく叫んで暴れて、縛られた腕がヒリヒリと痛んできた頃になって、ブツンとマイクのスイッチが入ったような音がした。

「やぁ、待たせたね。・・・君も無駄に元気が良いねぇ。えーと、川本道裕くんか。おや、君も二回目なんだね。そうかそうか、仲がいいんだねぇ・・・しかし良かった。もう一回猶予があるよ。今度はあまり好奇心のままに行動しないようにね?」

おそらく前にあるであろう、スピーカーから聞こえる男の一方的な言葉に、俺は益々訳が分からなくなった。

意味不明な内容だが、何となく良くない事を言っているのだけは理解できる。

「・・・お前は誰だ?」

しかし俺の当然の疑問には、笑い声が返された。

「知らなくていいよ、どうせすぐに忘れるんだから。」

「忘れるって何だよ?」

「川本道裕くん、赤い光が見えるかい? ほぉら、この光をじっと見てごらん・・・そう、じーっとだ。」

従いたい訳ではなかったが、目は自然と赤い光を見ていた。

「いいかい、今から音楽を流すよ? そうすると君の目蓋はどんどん閉じてきて意識が無くなる。そして、君が次に目を開けた時には、ここに来た事、今のこの出来事をすべて忘れている。そして君はいつも通りの一日を送ったと思っているんだ。ほら・・・じゃぁ音楽を流すよ・・・」

そして、何となく聞き覚えのある変わったリズムの曲が流れ始めると、俺の目蓋は重くなり、次第に意識は遠くなった。

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