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高いアンテナ  作者: 薄桜
1/5

山の向こうに見えるもの

「空想科学祭2011」(RED部門 短編)参加作品です。


何となくの文字数で5本に分けておりますので、5日間よろしくお願いします。

午前10時の更新にしております。

ある日、山の向こうに何かが見えるようになった。

まだはっきり何なのか分からないけど、灰色をした何かが見えている。

それは小学5年生の夏の事だった。

夏休みまで、あともう少しという何となくソワソワした時期で、朝っぱらだというのに、やたら元気で煩い蝉の声に負けないように俺は大声を出した。

「あれ何だろうな?」

正面の山の向こうを指差して、隣のコウちゃんに聞いてみたものの、コウちゃんも、

「何だろうな?」

って正面を見据えたまま、オウム返しのように返してきた。

「ビルでも建ってんのかな?」

「こんな田舎にか? そりゃ無いだろ。」

「じゃぁコウちゃんは、何だって思うんだ?」

「・・・えーと、アンテナ?」

「それだと何かつまんないな。」

でも、俺たちには答えは解らない。

だからそれから二人して、ああだこうだと言い合って、段々と壮大な想像を膨らませてみたものの、結局何なのかは分からないという、非常に無駄な事を何度も何度も繰り返した。


それから何日かで、その何かは更に伸びた。

灰色はもっとよく見えるようになったが、どうやらあれは覆いのようで、その向こう側は一向に分からない。

謎は更に深まってしまったのだ。

人は・・・特に子供は、隠されれば見たくなるし、分からなければ知りたくなる。それが子供の良い所であり、悪い所であり・・・俺とコウちゃんも十分に子供だったので、もちろんあの向こう側が知りたくてたまらず、

「あれ、何か見に行ってみようぜ!」

そう言い出すのは、当然の流れだったのだ。

「何だ、コウちゃんも同じ事考えてたんだ!?」

ただ先にコウちゃんが口にしただけで、実は俺も似たような事を考えていたのだ。


夏休みに入ってすぐ、俺たちはリュックに色々と詰めて、山の向こうの灰色を目指した。

・・・しかし、やっぱり俺たちは子供だった。

途中で疲れるし、山に近付くと灰色なんて見えないし、方向は分からなくなるし、ウロウロし過ぎてどっちに行けば帰れるのかも分からなくなり・・・結局、夜になって困り果てていた所に、いきなり眩しい光を向けられる事になったのだ。

「君たち・・・道裕くんに、孝太くんかい?」

そう声をかけてきた駐在さんに発見されて、事無きを得た。

その後、どれだけ親や学校の先生に怒られたかは、想像に任せたいと思う。

とりあえず、その夏休みは、あんまり楽しくなかったとだけは言っておく。


その間にも灰色の覆いは着々と高く伸び、休みが終わった頃になって、やっと待望の覆いが外された。

ようやく俺たちは、その正体を知る事ができたのだ。

「やった! みっくん、俺の当たりっ! やっぱアンテナじゃん!!」

自慢するように派手に喜ぶコウちゃんに、俺は少しムッとしたのを覚えている。


  ◆◆◆◇


あれから6年。

コウちゃんとは違う高校に進んだ。コウちゃんは地元で、俺は大分離れた市街地の学校に進み、学生寮で生活をするようになった。

しかし夏休みになると、今年も寮からは追い出されてしまい、仕方なくバスで何も無い実家に戻って来た・・・その早々に、原付に乗っていたコウちゃんとバッタリ出会った。

「ようっ! みっくんじゃん、帰って来たんだ?」

「おー、コウちゃん? ってバイク?」

オープンフェイスのカーキ色のヘルメットにゴーグルをつけて、少し大きめの原付にまたがる彼は、

「あぁ、エイプだ。カッコいいだろ?」

って得意げにニカッと笑った。

去年帰って来た時は、あんまり会ってない。

盆前に偶然会った時に「俺今バイトしてんだ!」って意気込んでて、そのまま慌しく行ってしまったのだが、ひょっとしたらこいつのためだったのかもしれない。


そして、蝉の声の響く、影の無い暑い道を、二人で話しながら俺の家に向かって歩いた。

最近の事を話した後は自然と過去の話になり、左斜め後ろに見える山の向こうのアンテナの話になった。

「結局あれ何なんだろうな?」

俺は足を止めて振り返った。

完全に覆いが無くなった後も、実際には謎が解けた訳ではない。

形状からアンテナだろうという事で、一応コウちゃんが勝ちを収めたものの、何のためのアンテナなのか? そもそもあれは本当にアンテナなのかというのが本当の所である。

不思議な事に大人に聞いても、「知らない。」「気にするな。」と言われるばかりで、その正体は一向に分からなかった。

二人してアンテナ・・・らしきものを見つめてみるが、やっぱり今も答えは出ない。

「なぁ、今度こそ確かめに行ってみるか?」

コウちゃんがニヤリと笑う。

「いいな、それ。」

俺もニヤリと笑い返した。

あれから6年も経って、俺たちは随分大きくなった。

あの時は無計画に突き進んで、酷い思い出になったけど、今度は絶対大丈夫だ。

事前の情報収集に、大体の位置を地図で確認しておく事だって出来る。おまけに足はコウちゃんのエイプだ。

あの頃とは、小5の頃の俺たちとは違うんだ。


  ◆◆◆◇


しかし、実際に行動してみると、どうにもおかしい。

山の中だという事もあるのかも知れないが、家にあった地図では判然とせず。あれだけ高く大きいのだから絶対に遠くからも見え、ネット上に何らかの情報があるんじゃないかと期待したのだが、そんなものは一切無かった。

それ所か、ネットの地図にも載っておらず、地図から航空写真に切り替えても山の緑ばかりで何も無かった。

改めて大人に聞いてみても、誰もアンテナの目的も場所も知らず、その態度からは一向に関心を引いた様子も無い。

・・・妙だな。

成果が無かった事をコウちゃんにメールすると、向こうからも似たような返事が返ってきた。

やっぱり何か変だ。絶対におかしい。


  ◆◆◆◇


「どうする?」

夜に、家から一番近い自動販売機で待ち合わせた。

正直な所、どうにも気味が悪い。

その不安を誤魔化すために、さっき買った炭酸飲料水を流し込んだが、一気に入り過ぎてむせ、涙がにじむ。最近お茶系やスポーツドリンクばかりで、久しぶりに飲んだせいか?

コウちゃんはそんな俺の様子に苦笑して、自分も炭酸飲料水を一口飲んだ。

「やっぱさー、気になるよな。」

「確かに。隠されると気になるってのはあるよな。・・・だけど、不自然過ぎて何か嫌な感じがする。」

コウちゃんの言わんとする事には何となく賛成出来なくなった。それを伝えてから、光に向かい損ねてか、こちらに向かって飛んで来た蛾を追い払った。

それ以外にもたくさん虫は群れていて、さすが田舎の山の中だと思わせた。

俺たちにとって貴重な存在の自動販売機は、虫たちにとっても貴重な光源であるらしい。

「だから、それを暴きにいこうって話だろう?」

「でも、絶対何かあるって。」

コウちゃんは更に誘ってくるが、ここまで見事に隠蔽されていると、どうにもヤバイもののような気がしなくもない。

「あれ? みっくん怖くなったのか?」

しかし俺は、挑発的なコウちゃんの物言いにあっさり乗ってしまった。

「そんな訳あるか!?」

あれから6年も経って、随分大きくなったつもりだったけど・・・

やっぱり俺たちは、まだまだ子供だ。

(2011.08.07)誤字訂正

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