表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

Chapter 2 初陣 ―― 介入

彼女はレンヌの街付近に着地した。


街を見下ろせる高所を探し、崩れかけた石造りの監視塔の上で視線をゆっくりと巡らせる。


(街全体が死んでいるな)


石壁に囲まれた中規模の城塞都市。

中央には広場と井戸、周囲には二階建ての石造家屋が密集している。

木骨組みの張り出し窓、急勾配の屋根、煙突。

だが煙は無く、扉も閉じられたまま。


通りには荷車が倒れ、布が風に擦れている。

放棄された時間が長いわけではない。

生活の形が崩れたまま止まっていた。


彼女はしばらく動かなかった。


視線が遠方で止まる。


(人間か?)


石畳の大通り。走る二つの影。


彼女は塔の縁から踏み出した。


落下。


音もなく地面へ着地し、そのまま駆け出す。


風だけが遅れて流れた。



静まり返った大通りを、二人が走る。


背に大剣を背負った青年と、小柄な少年。


「レオ!止まるな!」


「止まってないって! でも後ろ――!」


振り返らなくても分かる距離だった。


迫るそれらは獣の形をしていた。

汚れた黒い体毛に鋭い牙と爪。

ドミナス配下の魔物だ。


青年は足を止める。逃げきれない距離だった。


大剣を抜く。


「下がれ!」


少年はすぐ脇へ退く。


影が跳ぶ。


青年が踏み込み、横薙ぎに払う。

重い斬撃が魔物を叩き落とす。


一体、二体。止まらない。


呼吸は乱れない。

常人ではあり得ない動きだった。


その瞬間、空気が変わる。


――来る。


通りの奥に、立っていた。


全身を覆う硬質の装甲。

そして長い大刀。


ギラード。

その名を持つドミナスの視線が、剣を構える青年で止まり、蠢くような声が漏れる。


「……レムリア」

 

青年は剣を構える。


「来いよ」


ギラードが踏み込む。

大刀が振り下ろされる。


受ける。


重い衝撃。腕が沈む。

だが折れない。踏み止まる。


押し返し、反撃の斬撃を叩き込む。


――止まった。


刃は鎧に当たっている。

だが、食い込まない。


「硬っ……!」


ギラードは間を置かず横薙ぎへ移る。

回避が間に合わない距離だった。


その瞬間――


音が止まった。


上空から叩き落とされた衝撃が地面を震わせ、石片と砂塵が大きく巻き上がる。

刃が届くはずだった軌道は遮られ、ギラードの身体が後ろへ大きくのけぞった。


二人の前に、女が立っていた。


戦闘の只中にいるとは思えないほど静かな佇まい。

その場に「割り込んだ」のではなく、最初から「そこに在った」ような存在感だった。


女はまず、剣を構えた青年へ視線を向ける。


「ようやく人間を見つけたぞ」


青年は息を呑む。


助かったという安堵と、敵味方も分からない異質な存在への警戒が、同時に胸を走る。


背後で砂塵を払ったギラードが、ようやく状況を認識する。

のけぞった体勢を立て直し、女を睨みつけた。


「何者だ」


女はわずかに間を置いてギラードへ向き直る。


「名前か……考えてなかった。

この星にちなんで、TERRAテラとする」


ギラードは鼻で笑う。


「名に興味はない。人間は殺すか捕らえるかだけだ。貴様もレムリアだな? なら大人しく殺されよ」


テラは青年と、その背後にいる少年の二人を確認する。


(やっと見つけた人間だ。失うわけにはいかない)


次にギラードへ視線を戻した。


(こいつは一体何だ……データにない生物。見た目は明らかに戦闘型だ)


「私は人間に用がある。邪魔をするなら殲滅する」


硬質に見えるテラの右腕の表面が、わずかに波打った。

黒い外装が液体のように流れ、形を変えていく。


手のひらの中央へ金属が集まり、剣の柄に似た形状が生成される。


次の瞬間、そこから白い光刃が伸びた。


一拍の静止。


テラは右手を持ち上げ、構える。


それを見たギラードが、獰猛に口角を吊り上げる。


「やろうというのだな。面白いぞ相手になってやる」


大刀を構え――


「死ねぃ!!」


大通りを踏み砕く勢いで突進した。


遅れて、テラが踏み込む。

その踏み込みの加速は、明らかにギラードより速い。


「はえぇ!」


青年の声が漏れる。


交錯。


テラはギラードの身体を駆け抜け、そのまま大きく後方で静止した。

勢いを殺した足元で、砂が遅れて滑る。


背後でギラードが震える。


「な、なんだと……」


次の瞬間、胴が横一文字に裂けたことが、はっきりと分かった。

ギラードの身体は崩れ、形を保てず、灰のように崩落していく。


静寂。


気づけば白い光刃は収められていた。

テラはゆっくりと歩き、灰のそばまで近づく。


立ち止まり、見下ろす。


「人間は野蛮だとは聞いていたが、思った以上に好戦的だな。あ……こいつは人間ではないか」


青年は座り込んだまま。

安堵と、目の前の女が何者なのか分からない不気味さが混ざり、表情が固い。


「……何なんだこの女」


その後ろで、少年だけが違った。


緊張を含む青年とは対照的に、

突如目の前に現れた強く美しい存在に、ただ見惚れている。


「す、すげぇ……!!」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ