Chapter 17 外征
レンヌが初めてドミナスの拠点を攻める。
ブルセリアンドの森はレンヌから西に約四十キロ。深い森だが、かつては人も住んでいた地域だ。
しかし今はダルマシオンの拠点と化していると推測されている。
第一目標は生存者の救出。
第二目標は拠点の殲滅。
拠点を潰さない限り生存者の救出は難しい。結局、両方を目指すことになる。
レンヌ城、大広間。
遠征前の軍議が行われていた。
グレインが地図を指しながら言う。
「目標地点は森の中だ。平地よりは潜入に向いている。無駄な戦闘はなるべく回避してダルマシオンとレグナートの二体のみを目標にする。
雑兵は無視して支配者を倒すのが一番効率が良いことはこのレンヌの解放が証明している」
レオが腕を組む。
「レグナート級が他にもいた場合はどうする?」
グレインは迷わず答えた。
「その場合は即撤収。無事に帰還することを優先する」
ヴァンが椅子にもたれながら言う。
「テラと俺は確定として、あと二人くらいかな。あんまり多いと目立つ」
グレインが頷く。
「今回は俺も行く。アルグランド、留守の防衛を任せたい」
アルグランドは軽く肩をすくめる。
「抜け駆けと言いたいところだが、良いだろう」
その時、後ろから声が上がる。
フィオナだった。
「あの!私も行きたいです!」
グレインが振り向く。
「攻撃術は撃てるようになったのか?」
フィオナは小さく首を振る。
「いえ……それはまだです」
グレインははっきりと言う。
「ならやめておけ。意気込みは買うが、自衛能力は最低限必要だ」
「はい……」
フィオナは肩を落とした。
その時、一人の女が前に出た。
「私に行かせてください」
フィオナと同じ女のレムリア。
名をジェニスという。
父が騎士だった影響で子供の頃から剣と槍を振るって育った。性格は勝気で男勝り。テラの特訓にも最後までついてきている。
彼女もまた、女レムリア特有の特殊能力を持っている。
エーテルを広範囲に散布し、周囲一キロほどの状況を映像として把握できる能力だ。さらに彼女が触れることで、その映像を他人と共有することもできる。
潜入任務には適した能力だった。
グレインが少し考えてから言う。
「ジェニスか……確かに潜入任務ならお前は適任だ」
そして周囲を見渡した。
「よし、メンバーはこれで決まりだ。明日出発する」
軍議が終わり、人が動き始める。
その中でグレインがヴァンを呼び止めた。
「ヴァン、何があった。昨日までとは違うように見えるぞ」
ヴァンは軽く笑う。
「俺自身はたいして変わんねーよ。でもテラにちょっと後押ししてもらったんだ。レグナートを押さえる役目は俺がやる」
グレインはヴァンの目を見る。
「よく分からんが、ヤケになったわけではないようだな。頼りにさせてもらう」
少し離れたところでは、フィオナがジェニスに声をかけていた。
「ジェニスさん、気をつけてくださいね」
ジェニスが笑う。
「フィオナ。お前の分まで暴れてきてやる。留守を頼むぞ」
「はい!」
フィオナという娘は、どうも強い女に惹かれるところがあるようだ。
翌日。
派手な見送りはなかった。
四人は静かに城を出る。
テラとレムリア三人の行軍は速い。
昼過ぎには森の手前まで到達し、夕方前にはブルセリアンドの森の入口に迫っていた。
ここからは馬では進めない。
四人は馬を森の外に隠し、徒歩で森に入る。
ジェニスがエーテルを展開する。
周囲の状況が頭の中に流れ込んでくる。
「見張りがいます。右に三体」
「避けるぞ」
グレインが低く言う。
四人は巡回する魔物を避けながら森を進む。
だが進む方向は、魔物が集中している場所だった。
しばらく進むと、森の一部が大きく切り開かれている場所に出た。
そこには魔物の陣が並んでいる。
数は多い。
そしてその中央。
地面が大きく抉られたような、巨大な地下への入口が見える。
ヴァンが言う。
「さすがこんなとこを拠点にする奴だ。城は趣味じゃねぇんだな」
グレインが周囲を確認する。
「さすがに敵が多い。見つからずにあの入口まで行くのは無理だな」
テラが言う。
「ここからは正面突破する。グレイン、我々が入った後、入口の押さえを頼めるか」
「無論だ」
ジェニスが聞く。
「一人で大丈夫なのですか」
グレインは笑う。
「外の奴らは雑兵だ。数は問題ではない。それに、お前の能力は中でも生かせる」
テラが頷く。
「よし。では行くぞ」
四人は森の影から一斉に飛び出した。
突然の強襲に魔物達は一瞬混乱する。
だがすぐに数が集まってくる。
魔物たちは四人の前を塞ごうとするが、何の障壁にもならず蹴散らされる。
四人は入口へ突っ込んだ。
そして入口に到達する。
その時。
グレインだけが足を止めた。
三人を見送る。
「無事でな」
ヴァンが振り返る。
「おっさんもな!」
三人は地下へと駆け下りる。
グレインは来た方向を振り返る。
魔物の大群が押し寄せてきていた。
グレインは大刀を構える。
「あぁ言った以上、一匹たりとも通すわけにはいかんな」
大刀にエーテルが集約する。
「ぬうぅぅ!」
グレインが大刀を地面に突き刺す。
前方へ放射状に地面が裂けていく。
「はぁぁっっ!」
地割れからエーテルが噴き出し、魔物たちを次々と焼いていく。
拠点内部。
レグナートがダルマシオンに報告する。
「ダルマシオン様、敵襲です。レンヌのテラ達かと思われます」
ダルマシオンが笑う。
「テラ……カーネリカをやったという奴か。なぜわざわざ攻めてきた」
レグナートが答える。
「彼らはレンヌの拠点を拡大しています。西進するにはこの拠点を脅威だと判断したのでしょう」
ダルマシオンは肩をすくめる。
「短絡的な奴らだ。レグナート、任せて良いか」
「はっ、勿論です」
レグナートは王の間を出ていった。
その目には鋭い光が宿っている。
テラ達は地下回廊を進んでいた。
魔物が現れるが、三人は止まらない。
数体の魔物を倒しながら進むと、やがて目の前に巨大な扉が現れる。
ヴァンが言う。
「いかにもな扉だぜ」
ジェニスが周囲を探る。
「何かいます。ただの魔物じゃない」
テラが扉を押し開ける。
その先は大広間だった。
広間の中央に立つ影。
レグナート。
ヴァンが言う。
「やっぱりいやがった……」
レグナートが言う。
「よくぞ来た。待っていたぞ」
テラが言う。
「お前がレグナートか」
「いかにも。私もお前を初めて見る。確かにこの星の人間ではないようだ。」
「待っていたとはどういう意味だ」
「カーネリカを倒した貴様に興味がある。一度戦ってみたいと思ってな」
ヴァンが口を挟む。
「俺はスルーだったのにテラには興味津々かよ」
「それで命拾いしたのだ。喜べ」
ヴァンはテラに小声で言う。
「テラどうする。このまま戦えば三対一だ」
テラは答える。
「いや、いつダルマシオンが出てくるか分からない。私は先に向かう。ヴァン、ここは任せたいがやれるか?」
「もちろんだぜ。そのために来たんだ」
「よし。だが、流石に『はいどうぞ』とはいかないだろう。隙を見て私は先に行くから後を頼む。最初は見ていろ」
「分かった」
レグナートが槍を構える。
「そろそろ良いか」
テラが前に出る。
「望み通り相手になろう」
レグナート
「行くぞ……!」
レグナートが一瞬で距離を詰める。
(速い!)
槍と光刃が激突する。
金属音が広間に響く。
ジェニスが息をのむ。
「なんて戦いだ……次元が違う」
ヴァンは目を離さず言う。
「やっぱりテラはすげぇ……」
レグナートが笑う。
「フフ、なるほどな。カーネリカを倒したというのも頷ける。だが、その程度なら期待外れだぞ」
テラは戦闘の中で分析していた。
(戦闘力は私とそう変わらない。ヴァンに任せるには多少削っておく必要があるな)
テラは光刃を収める。
腕の形状が変化していく。
テラの両手に青白い光刃のダガーが形成される。
同時に脚部出力が上がる。
次の瞬間。
テラはレグナートの懐に飛び込んだ。
槍の間合いを無理やり潰す。
ダガーが鎧に突き刺さる。
一撃は浅い。
だがテラは止まらない。
高速の刺突が次々にレグナートへ打ち込まれる。
レグナートが顔を歪める。
「くっ……なんだ……先ほどまでとはまた別人だぞ……!」
テラが言う。
「私はアンドロイドだ。お前達のように長年鍛錬して身に付けた型のようなものを持たない。お前に合わせて武器や能力の割り振り、戦い方を変えただけだ」
レグナートが笑う。
「ふふふ良いぞテラ……期待通りだ」
テラは冷静に判断する。
(やはり浅いか。このままだと時間がいるな)
テラが言う。
「いつまでもお前の相手をしているわけにはいかない」
再びテラが突っ込む。
同じ展開になる。
しかし最後。
テラの拳がレグナートの顔面にめり込む。
レグナートの体が大きくのけぞる。
テラが叫ぶ。
「ヴァン!あとは頼む!」
ヴァンは一瞬見とれていた。
ハッとする。
「お、おうよ!任せな!」
レグナートが体勢を戻し、テラを追おうとする。
「待て!テラ!」
その瞬間。
背後から殺気。
振り返るレグナート。
ヴァンの大剣が振り下ろされる。
レグナートが槍で受け止める。
ヴァンが言う。
「てめぇの相手は俺だぜ」
ヴァンの声は少しだけ強張っていた。
だが、その目はレグナートをまっすぐ捉えていた。
【現在の保護対象:1,948人】
【増減:±0人】




