Chapter 13 特訓
城の訓練場。
この城のレムリアは全員で二十四名。
強さはまちまちだが、ドミナスを撃破した経験を持つのはアルグランドとヴァンのみ。
そのドミナスも中位種程度と想定される。
つまりは――
「俺たちは弱い!」
アルグランドが野太い声で吠えた。
テラの特訓開始直前、五名のレムリアを前にしての言葉だった。
「俺たちが強くならねばまた死人が出る。
誰かが死んだら俺たちの責任だ」
皆の視線が自然と地面に落ちる。
地下の記憶は、まだ生々しい。
この特訓を進言したのはアルグランド自身だ。
誰よりも気合いが入っている。
やがて時間になり、テラが現れた。
「テラ様、よろしく頼みます」
「ああ」
やり取りはそれだけだった。
テラは訓練場の中央に立つ。
「まずは各自の強さを確認したい。
全員、武器を取って殺す気でかかってこい」
一瞬、空気が止まる。
「六人でですか」
「もちろんだ。時間が惜しい」
あまりにも自然に言われる。
アルグランドは仲間を見る。
全員が無言で武器を握る。
テラは素手のままだ。
アルグランドが踏み込む。
その動きを合図に、他の者も続いた。
全員が一斉に打ち込む。
三人の剣が、まとめて素手で止められた。
遅れて踏み込んだ一人が拳で弾き飛ばされる。
残る二人は、視界から消えたと思った瞬間、蹴りで地面を転がっていた。
「どんどん攻めてこい」
声は変わらない。
テラは各自の攻撃、防御、回避を淡々と見ている。
受け、払い、崩しながら、強さを測っていく。
五分ほどが経過した。
「なるほど。これは……」
一拍。
「確かに弱いな」
真顔で言われる。
覚悟はしていた。
だが、はっきり告げられると、身体がわずかに縮こまる。
テラは続ける。
「攻撃は軟弱、回避は鈍い、防御もおざなりだ。
なまじ普通の人間より優れているからか、自己鍛錬の形跡が感じられない。
低級の魔物だけを相手にしているから緊張感も磨かれていない。
強くなるには常に限界を超え続ける必要がある」
見学していたヴァンが小さく漏らす。
「お前は最初から強いじゃねーかよ……」
誰も笑わない。
「強さは積み重ねの上にある。いきなり強くなることはできない」
テラは一度視線を巡らせた。
「普通はな」
その言葉だけ、わずかに低く響く。
空気が、ひとつ重くなる。
「お前たちは早く強くなりたいのだろう。
ならば死線を作り出す必要がある。
それを手伝ってやる」
間。
「殺す気で行くから生き延びろ」
空気が変わった。
次の瞬間、誰もテラの動きを追えなかった。
視界が揺れる。
地面が近づく。
息が抜ける。
痛みが遅れてやってくる。
殴られ、蹴られ、叩き伏せられる。
骨が鳴る。
回避しようとする。
だが間に合わない。
成功する未来が見えない。
それでも避けたい。
(殺される)
地下で感じた恐怖とは質が違う。
一切の容赦がない。
見学していたレムリアたちは言葉を失っていた。
やがて全員が、意識の縁まで追い込まれたとき。
攻撃が止まる。
地面に伏したまま、誰かが震える息を吐いた。
(やっと終わった……)
「フィオナ」
テラが呼ぶ。
「治療してやってくれ」
「は、はい!」
緑の光が訓練場を包む。
折れた骨が戻り、裂けた皮膚が閉じていく。
息が整う。
「立て、もう一度だ」
顔色一つ変わらない。
しかし、まるで悪鬼のように見えた。
それが三度繰り返された。
先に限界に達したのはレムリアではなく、フィオナだった。
「も、もう……」
「頃合いだな。次に進む」
息を整える暇もない。
「全員、武器をエーテルで満たせ」
ヴァンが小声で言う。
「俺が教えてもらったやつだ」
できない者もいる。
アルグランドはできている。
「できている者はそのまま維持だ。
満たす量をぶらすな。常に一定を維持しろ。
ゴルド、力みすぎだ。武器を身体の一部だと感じろ」
集中が訓練場を満たす。
「よし、順番に打ち込んでこい。
打ち込みの瞬間だけ力を最大に上げろ。
後のことを考えるな。全力で来い」
アルグランドが踏み込む。
赤いエーテルを纏った剣が振り下ろされる。
衝撃。
素手で受け止められる。
「ダメだ。弱い。すべてを出し切れ」
次々と打ち込む。
「弱い」
「タイミングが合っていない」
「エーテルを意識しすぎだ」
淡々と指摘が続く。
やがてエーテルが完全に枯れた。
全員、膝をつく。
息が荒い。
立てない。
「よし。これで実戦形式は終わりだ」
安堵が広がりかける。
「最後は基礎体力だ。外壁を十周して今日は終了とする」
誰も声を上げる余力がない。
どうやって走り切ったのか、記憶は曖昧だった。
夜。
ヴァンとアルグランドが座り込んでいる。
「明日は俺の番だ……」
「覚悟した方が良い。
頭では死なないと分かっていても、あの場では本当に殺される気がした」
ヴァンは天を仰ぐ。
「やりたくねぇ……」
アルグランドは少しだけ笑った。
「だがな。終わってみると、やって良かったと思える」
「そうなのか?」
「ああ。今日を振り返ると、次はこうしようという考えが浮かぶ。
これが鍛錬というものなのだろう」
一拍。
「それに……あれより強い敵がいるとは思えん」
二人は笑った。
一か月が経った。
全員が五回は訓練を繰り返している。
光景は相変わらず凄惨だ。
「はぁ……はぁ……なんでだ。なんでかわせねぇ……」
ヴァンが膝をつきながら呟く。
グレインが息を整える。
「我々も伸びてはいる……。しかし伸びるたびにテラは強度を上げている……」
ヴァンが苦笑する。
「ちょっとくらい、良い目を見せてくれてもいいだろ……」
「同意だ……」
訓練場の中央で、テラは静かに立っている。
それでも、誰も逃げない。
レムリアたちは、確実に強さを増していた。
【現在の保護対象:959人】
【増減:+54人】




