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Chapter 12 百六の死

襲撃から三日が過ぎた。


死者は百六名。


街の教会では、キレルのもと簡易のミサが執り行われた。

簡素な棺が並ぶ。泣き崩れる者もいれば、ただ黙って立つ者もいる。


埋葬。


テラも立ち会っていた。

いつもと変わらぬ静かな佇まいで、最後までその場に立っている。


これが初めての大きな被害だった。

民衆の空気は重い。声は低く、歩みは遅い。


だが、崩れてはいない。


城。


改めて、今後の方針が話し合われていた。


キレルが口を開く。


「民衆は一様に沈んではいます。しかし、神とテラ様への信仰は失われていません」


マルディナが小さく息を吐く。


「花の成果かしらね」


キレルは肩をすくめた。


「それもあるかもしれませんが、そもそもこの時代です。身近な者の死に、皆ある程度は慣れている。

それに――この程度で揺らぐようでは、信仰など最初から成り立ちません」


皮肉を交えた言い回しに、わずかに苦笑が漏れる。


グレインは腕を組んだまま言う。


「絶望しようと、行く場所などない。生きるなら、ここで踏みとどまるしかない」


ヴァンが低く続けた。


「……どこかで安心してたんだ。このまま何となくやれるんじゃないかってな」


視線が床に落ちる。


「でも今回は……人が死んじまった」


沈黙。


キレルが口を開く。


「今回の襲撃はカーネリカの残党です。そう何度も起きるとは思えません」


グレインは即座に返す。


「そうだと良いが、起きた時に対処できなければ意味がない」


ヴァンが顔を上げる。


「具体的には、何からやる?」


グレインの声ははっきりしていた。


「防衛力の強化が急務だ。現状、ドミナスに安定して対処できるのはテラしかいない。はっきり言おう。俺たちは弱い」


誰も否定しない。


そこへ、アルグランドが入ってきた。


「それに関して、進言がある」


ヴァンが振り向く。


「体はいいのかよ」


「フィオナの力が私にも働いたようだ。問題ない」


まだ本調子ではないはずだが、その声は揺れていない。


「テラ様に、訓練をお願いできないか」


場の空気が静まる。


テラは何も言わない。


アルグランドは続ける。


「戦いは、最後は個の力だ。……俺は地下を守れなかった」


その言葉に、重みが落ちる。


「テラ様の戦闘力は我々の遥か上にある。だから、我々を鍛えてもらいたい」


グレインがテラを見る。


「テラ、どうだ」


わずかな間。


「日中、見張りが機能する時間帯なら可能だ」


即答だった。


「では今後、訓練日程に組み込む」


レオがぼそりと漏らす。


「テラの訓練って、どんなだろうな……」


ヴァンが顔をしかめる。


「すごく嫌な予感がする……」


場の緊張が、わずかに緩む。


キレルが改めて言った。


「国の強さの源泉は人口です。周囲の生き残りの取り込みも強化すべきかと」


「そうだな。範囲を拡大して勧誘を行う」


会議はそこで終わった。


フィオナは、街の外れの森まで足を伸ばしていた。


自分の力を確かめるためだ。

なぜか、人に見られたくなかった。


目を閉じる。


体の奥が、わずかに熱を帯びる。


あのときの感覚を思い出そうとする。だが、輪郭が曖昧だ。


そばにあった枯れた花に手を添える。


癒す。


そのイメージだけを強く持つ。


指先が緑に光る。


手を離すと、花はみずみずしく蘇っていた。


しかし、それは束の間だった。


色が抜け、花弁がしおれ、再び枯れていく。

何度やっても同じだった。他の花でも同じ。


「死んだものは生き返らない……ということね」


感覚は分かる。


誰かが負傷すれば、役には立てる。


次に攻撃を試す。


手の先に力を集める。


あのときのように。

矢を放つイメージ。


……。


何も起きない。


「どういうこと……」


繰り返す。


集中する。


それでも、何も起きない。


あのときの感覚が、どうしても掴めない。


次の日も。


その次の日も。


一度も成功しなかった。


あれは私ではなかったのかもしれない。


そんな考えすら浮かぶ。


「テラ様に聞いてみようかな」


主塔。


「攻撃の方法が分からない?」


「そうなんです。テラ様なら分かるかと思って」


「分からない。私は人工物だ。お前たち生命体と根本的に異なる。レムリアの力のメカニズムもインプットされていない。他のレムリアには相談したのか」


「いえ。なんとなく、皆とは違う気がしていて」


「確かに、お前の力は他のレムリアとは違う。だが原理は通じるところがあるはずだ」


「はい、ありがとうございます」


テラが名を呼ぶ。


「フィオナ」


「はい」


「焦るな。治療できるだけでも、十分だ」


フィオナは、はっきりと頷いた。


「はい!」


ヴァンのもとへ行こうかと思ったが、やめた。


まずは治療の能力を、確かなものにする。


そう決めた。


そして、その機会はすぐに訪れることになる。


レムリア訓練場。


「こ、ころされる……」


地面に転がり、息も絶え絶えのアルグランド。


今日から、テラによるレムリア訓練が始まっていた。


【現在の保護対象:905人】

【増減:±0人】

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