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Chapter 11 覚醒

地下。


魔族のキサリアと対峙するアルグランド。

仲間のレムリア二名は死んだ。あるいは戦闘不能。分からない。

出口は閉じられている。


「くっ……」


思っていたより何倍も強い。


アルグランドは率直にそう思っていた。


アルグランドはレムリアの中では決して弱くない。

しかし多くのドミナスは個の強さでレムリアを上回る。


地上が異変に気付いて助けに来るまでの時間稼ぎ。

アルグランドがとるべき手段はそれだった。


しかし。


キサリアは腕をアルグランドに向ける。その指先は仲間を貫いた光を纏っている。


かわせば後ろの避難民に当たる。

回避は選択できない。


発光。


アルグランドはエーテルで強化した剣で防御する。


光が刃に触れた瞬間、嫌な振動が腕に伝わった。


次の瞬間――


剣が粉々に砕け散る。


砕けた破片が石床に跳ね、乾いた音が広間に響いた。


一瞬だけ、時間が止まったように感じる。


キサリアは攻撃を緩めない。


次に放った光弾は、ためらいもなくアルグランドの胸を貫いた。


「ぐ……ぬぉ」


息が詰まる。


視界が暗くなる。


膝が折れ、体が崩れ落ちる。


出血が彼の衣服を、ゆっくり、しかし確実に赤く染めていく。


マルディナの顔が強張る。

キレルの祈りが、途中で途切れる。


地下の空気が凍り付いた。


避難民たちは混乱し、地下を逃げ回る。

地下の大広間は広大で、通路と小部屋もある。


なるべくキサリアから離れようとするが、出口がない以上、袋のネズミであることに変わりはない。


キサリアはゆっくり歩き出す。


急ぐ必要がない。

恐怖はすでに十分に育っている。


指先がわずかに動く。


放たれた光弾は、広間の奥にいた数人を壁ごと抉り取った。血は飛ばない。ただ、そこにいたはずの人間は消える。空白だけが残る。


悲鳴が上がる。光が走る。また一人、消える。


フィオナは子供たちを少しでも安全な場所へ移動させようと、声を張り上げる。


「こっちへ! 固まらないで!」


必死に鼓舞し、壁際へ誘導する。


しかし混乱の中、一人の少女が足を取られ、床に倒れた。


その瞬間。


魔族がにやりと口元を歪める。


視線が、ゆっくりと少女へ落ちた。


次の獲物を定めた目だった。


フィオナは迷わず少女の前に立つ。

自らの身を盾にする。


「なかなか勇敢だな。だが、意味はないぞ」


光弾が走る。


左肩を貫く。


衝撃が走る。

だがフィオナは逃げなかった。


その姿勢が、キサリアの癇に障ったのか。


続けて、右の脇腹を射抜く。


「いつまで続けられるか」


呼吸が乱れる。

視界が揺れる。


それでも、退かない。


三発目。


左足が貫かれた時――


ついに地面に手をついた。


冷たい石床の感触が、妙に鮮明だった。


後ろでは子供たちの泣き声と悲鳴が響く。


キサリアの目つきが変わる。

もう飽きた、と言わんばかりの視線。


腕がゆっくりと持ち上がる。


その姿を見ながら、フィオナは思った。


ここで、死ぬのだと。


様々な思いが駆け巡る。


グレインは私に素質があると言ってくれた。

だが結局、何も発現しなかった。


武器の使い方も知らない。

持ってもいない。


こんなことになるなら、学んでおくべきだった。


テラ様に憧れたのに、子供たちすら守れない。


こんな魔族一人、倒せない。


痛みではなく、悔しさで涙が溢れる。


しかし、どうにもできない。


――そのとき。


右手に、小さな力を感じた。


小さな女の子が、私の手を握っている。


震えている。


だが、その目は。


もはや立ち上がれなくなった私を、頼りにしている目だった。


はっとする。


そうだ。


ここで諦めたら終わりだ。


ここで死ねば、子供たちも死ぬ。


結局、無駄死にだ。


グレインの言葉を信じろ。

テラの姿を思い出せ。


子供たちを守るイメージをしろ。


そして。


こいつを、殺すイメージをしろ。


その瞬間。


フィオナの体から、凄まじい緑色の発光が起きた。


魔族が思わず目を背ける。


緑の光は嵐のようにフィオナを包み込み、その体を持ち上げた。

首が後ろへ垂れ下がる。


光の奔流が体内へと収束する。


やがて、フィオナは目を開けた。


その瞳は緑色に輝いている。


ゆっくりと頭を持ち上げ、キサリアを見据える。


体の傷は、いつの間にか治癒していた。


「な、なんだこいつは」


フィオナは立ち上がる。


今度はフィオナが右手を伸ばす。


「滅せよ」


「ひっ……」


言葉と同時に、右手から光が放たれた。


一直線に魔族へ。


抵抗も、悲鳴も、意味を持たない。


光に呑まれ、魔族は消滅した。


静寂。


そして遅れて、ざわめきが広がる。


フィオナはその場に崩れ落ちた。


光が収まったあとも、地下の空気はすぐには戻らなかった。


粉塵がゆっくりと落ちる。

割れた石床の隙間から、かすかな砂煙が立ち上っている。


誰も声を出さない。


さきほどまで泣き叫んでいた子供たちも、ただ立ち尽くしている。

目の前で起きたことを、理解しきれていない。


フィオナは膝をついたままだった。


立ち上がる理由が、急に失われたかのように、体から力が抜けていく。


緑の残光が、まだわずかに彼女の周囲を漂っている。


それが怖くて、誰も近づけない。


やがて、その光がゆっくりと薄れていく。


少女が、そっとフィオナの肩に触れた。


「……おねえちゃん?」


返事はない。


フィオナの体が横に倒れる。

子供たちが慌てて支える。


キサリアが消えたことで出入り口は元に戻っていた。

脱出した者から報告を受け、ヴァンが駆けつける。


ヴァンは消えたドミナスの痕跡と、裂けた床を見て足を止める。


「終わったのか、誰が……」


答える者はいない。

ただ、フィオナの周囲だけが、確かに違っていた。



フィオナが目を覚ましたとき、天井があった。


石造りの梁が視界に入り、かすかに差し込む光が揺れている。


城内の一室だった。


体を動かそうとすると、重さがある。

だが痛みはない。


肩に手を当てる。


傷は、跡形もなく消えている。

目を横にやると、アルグランドが少し離れたベッドで眠っている。


扉の近くで椅子に腰掛けていたレオが、動きを察して立ち上がった。


「……フィオナ?」


目が合う。


「起きた!」


声が廊下に響く。


足音が近づき、次々と人が入ってくる。


子供たちもいる。

だが以前のように騒がない。どこか遠慮がちだ。


フィオナはゆっくりと上体を起こす。


地下の記憶が、断片的に浮かぶ。


紫。

悲鳴。

そして、緑。


「皆は……」


かすれた声で尋ねる。


グレインが前に出た。


「終わった。地下のドミナスはお前が倒したのだ」


その言葉に、部屋の空気がわずかに動く。


グレインは続ける。

「女のレムリアは珍しい。皆の話を聞く限り、まるで魔術使いだったらしい」


フィオナは自分の手を見る。


指は、いつもと変わらない。


だが、地下で見た光が、まだ皮膚の下に眠っている気がする。


強く思ったことだけは覚えている。

守る、そして殺すと。


その先は、光に呑まれている。


子供たちが一歩近づく。


「あのね、すごかったよ」


「光がばーってなって」


「ドミナス、消えちゃった」


言葉はばらばらだが、目は輝いている。


フィオナは戸惑いながらも、微笑んだ。


その視線の先に、テラが立っている。


いつものように静かに。


感情を表に出さない顔で、ただ見ている。


やがて、短く言った。


「よく守ってくれた。感謝する」


それだけだった。


だが、その一言が胸に落ちる。


テラに認められた。


その事実が、じわりと広がる。


嬉しさと同時に、別の感覚も湧き上がる。


あの力は、自分の意思で出せるのか。

また、あの光を使えるのか。

それとも、暴発しただけなのか。


怖さが、遅れてやってくる。


フィオナは布団を握りしめる。


自分の内側に、何かがある。


まだ名前のない何かが。


「まだ休んでた方が良いよ」


レオが気を利かせた。

それを合図に、皆が静かに部屋を出ていく。


最後に扉が閉まる。


部屋に残ったのは、静けさだけだ。


フィオナは天井を見つめる。


あのとき、何が起きたのか。


答えは出ない。


だが一つだけ、はっきりしている。


もう、以前の自分には戻れない。


目を閉じる。


眠りはすぐに訪れた。




【現在の保護対象:905人】

【増減:−106人】

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