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【第2章追加!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第1章

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第9話:法廷での完全勝利


私は、黄金のスコップを地面から引き抜きました。


農園の入り口には、数百人の王宮騎士団が隊列を組んでいます。

その中心で、セドリック様が勝ち誇ったような笑みを浮かべていました。


「リゼット! 貴様の勝手もここまでだ。この農園は国家の重要拠点として、本日をもって王家が強制収用する!」


重々しく読み上げられた布告。

周囲で見守っていた隣領の騎士たちが、殺気立って剣を抜きかけます。

ですが、私は片手を挙げてそれを制しました。


「殿下。それは、現国王陛下のご意志ということでよろしいでしょうか?」


「当たり前だ! 飢えに苦しむ民を救うため、僕が直々に進言したのだ」


「あら、それは奇遇ですわね」


私は魔法の鞄から、一通の古い羊皮紙を取り出しました。

それは、第一話でセドリック様にサインさせた「婚約解消合意書」。

そして、その裏に隠されていたもう一つの効力です。


「建国女王の法、第十九条。――『慰謝料として譲渡された土地および財産は、有責側がこれを取り消すことを禁じ、もし不当に奪おうとした場合は、その地位を永久に剥奪する』」


「な……!? 何を言っている!」


セドリック様の顔が、一瞬で土気色に変わりました。

私は一歩、前へ踏み出しました。


「この合意書には、魔法のインクで殿下の署名がございます。私がこの農園を譲り受けたのは、正当な慰謝料として。それを強制収用することは、建国女王の法への反逆。つまり、王位継承権の放棄を意味しますわ」


「う、嘘だ! そんな法、聞いたこともない!」


「地味な事務作業を私に押し付けて、法典を一度も読まなかった殿下の落ち度ですわね」


その時、騎士団の背後から重厚な鐘の音が響きました。

現れたのは、隣国へ向かったはずのクラウス様。

そして、その隣には、厳しい表情をした国王陛下の姿がありました。


「……セドリック。リゼット殿の言う通りだ」


「父上!? なぜ、ここに……!」


「クラウス公爵から、お前の愚行の数々を報告された。関税の不正操作、そして建国の法への挑戦。……もはや、お前を王太子としておくわけにはいかぬ」


国王陛下の宣告に、セドリック様はその場に膝をつきました。

彼はそのまま、近衛騎士たちによって連行されていきました。

かつて私を「地味」だと笑った男の、あまりに惨めな結末でした。


「……終わりましたわね」


私は深く息を吐き、黄金のスコップを杖にしました。

肩の荷が、すとんと落ちたような感覚です。


「リゼット。よくやったな」


クラウス様が歩み寄り、私の手を包み込むように握りました。

大勢の騎士や国王様が見ている前で、彼は私の指先にそっと唇を寄せました。


「これで、誰にも邪魔されずに野菜を作れるな。……俺との、結婚の準備も。いいだろう?」


「……あら、それはまた別の契約が必要ですわよ」


私は顔が熱くなるのを隠すように、ふいっと空を見上げました。

空はどこまでも高く、澄み渡っています。


不当な婚約破棄から始まった私の逆転劇。

それは、世界一の富と、そして隣にいる騎士様の心を手に入れるという、予想以上の結果をもたらしたのでした。

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