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【第2章追加!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第1章

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第8話:逆転の流通革命


商売において、独占禁止法ほど恐ろしいものはありません。


ですが、ここは前世の日本ではなく、異世界です。

王太子が「関税一〇〇パーセント」という暴挙に出るなら。

私にだって、対抗手段というものがございます。


「リゼット、本当にいいのか? 王都への出荷を完全に止めてしまって」


クラウス様が、心配そうに私の顔を覗き込みました。

私は魔法のペンを動かし、新しい契約書にサインしながら頷きました。


「ええ、構いませんわ。関税で利益がゼロになるくらいなら、王都の貴族様たちには絶食していただいた方がマシですもの」


「絶食、か。貴様は時折、本当に容赦がないな」


クラウス様が、呆れたように、でもどこか楽しそうに笑いました。


私の作戦は、極めて単純です。

王都へ野菜を送るのを止め、すべて隣国のラングレー領……つまり、クラウス様の領地へ「輸出」することに決めたのです。


幸い、この農園は国境のすぐそば。

王都へ運ぶより、隣国へ運ぶ方が時間は短く、鮮度も保てます。


「リゼット屋の野菜は、今日からすべて隣国の特産品として扱われます。クラウス様、流通の護衛をお願いできますか?」


「ああ、任せろ。我が騎士団が、一粒の豆も奪わせはしない」


クラウス様は力強く頷きました。

彼の手が私の頭にぽんと置かれ、優しく撫でられました。

大きな手のひらの温かさに、胸の奥が少しだけ熱くなります。


(……いけませんわ、今はビジネスの話ですのに)


私は咳払いをして、地図を広げました。


数日後。

王都では、未曾有みぞうのパニックが起きていました。


「リゼット屋の野菜が届かないだと!? どういうことだ!」


王宮の食堂で、セドリック様がテーブルを叩いて叫んでいました。

目の前にあるのは、カビ臭いパンと、塩辛すぎて噛み切れない古い肉。

一度「リゼット屋」の新鮮な野菜を知ってしまった舌には、もはや残飯にしか感じられません。


「それが……農園からの道がすべて、ラングレー騎士団によって封鎖されておりまして。関税を払うくらいなら売らない、とのことです」


「なんだと!? あの地味な女め、僕に逆らう気か!」


セドリック様は怒り狂いましたが、時すでに遅し。

王都の富裕層たちは、野菜を求めて暴動寸前。

一方で、私の手元には隣国からの「外貨」が、金貨の山となって積み上がっていました。


「リゼット、隣国の国王からも親書が届いたぞ。君を『国の宝』として招待したいそうだ」


「あら、光栄ですわね。でも、私はこの農園を離れる気はありませんわ」


私は黄金のスコップを握り、ふかふかの土を眺めました。

お金も、名声も、私にとっては「自由」を手に入れるための道具でしかありません。


「私はただ、美味しい野菜を育てて、静かに暮らしたいだけですから。……クラウス様、今夜は採れたてのトウモロコシを焼きましょうか?」


「ああ、楽しみにしている」


クラウス様が私の隣に座り、穏やかな風が二人の間を吹き抜けました。

王太子の嫌がらせは、結局、私の農園を世界的なブランドへと押し上げる結果になったのです。


ですが、セドリック様もバカではありません。

追い詰められた彼は、最後の手に出ようとしていました。

農園そのものを「力」で奪い取ろうという、最悪の手段です。


(……来なさいな。その時は、法と魔法で完膚なきまでに叩き潰してあげますわ)


私は月明かりの下、静かに決意を固めました。


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