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【第2章追加!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第1章

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第6話:元婚約者の自業自得


ヒヒーン、と。

乾いた荒野に、不釣り合いな豪華な馬車の音が響きました。


私の農園の入り口で止まったその馬車は、王家の紋章が刻まれています。

ですが、かつての輝きはなく、砂埃にまみれてひどく汚れていました。


「……リゼット! 迎えに来てやったぞ!」


馬車から転がり出るように降りてきたのは、セドリック様でした。

三週間ぶりに見る元婚約者は、顔色が悪く、服もシワだらけです。

王太子としての威厳は、どこへ落としてきたのでしょう。


私は黄金のスコップを杖代わりに、冷ややかな視線を向けました。


「あら、どなたかと思えば。ここは立ち入り禁止ですわよ、殿下」


「無礼な! 僕を誰だと思っている! ……それより、リゼット。今すぐ王都へ戻れ」


セドリック様は、私の農園に広がる緑を見て、驚きに目を見開きました。

そして、さも当然のように命令を下します。


「お前がいなくなってから、城の食事がひどいのだ。保存魔法の期限も切れ、事務作業も山積みだ。お前の『地味な仕事』が必要なのだよ。感謝して戻るがいい」


「……お断りいたします」


私は即座に、短く答えました。


「なんだと? この僕の命令を拒むというのか!」


「殿下、お忘れですか。私はすでに貴方との婚約を解消し、慰謝料としてこの土地をいただきました。今の私は、一人の自由な農家ですわ」


私はふかふかの土を足で叩きました。

ここには、私の努力と、美味しい野菜と、そして十分な睡眠があります。

嫌味な上司(婚約者)に仕える義務など、これっぽっちもありません。


「それに、私にはもう『先約』がございますの」


「先約……?」


セドリック様が顔をしかめた、その時です。


「――その通りだ」


低い、地響きのような声が背後から聞こえました。

隣接する森から、クラウス様が姿を現しました。

彼は鋭い眼光をセドリック様に向け、私の肩を抱くように隣に立ちました。


「ラ、ラングレー公爵!? なぜ貴公がこんな辺境に……!」


「この土地の野菜は、我がラングレー公爵家が独占契約を結んでいる。そしてリゼットは、俺の個人的な客だ」


クラウス様の手が、私の肩にぐっと力を込めました。

そのたくましい腕の温もりに、少しだけ心臓が跳ねます。


「貴公の不始末で王城が混乱しているのは知っている。だが、彼女を連れ戻す権利は貴公にはない。……今すぐ去れ。さもなくば、我が騎士団が相手をしよう」


クラウス様が静かに剣の柄に手をかけると、セドリック様は情けない声を上げて後ずさりました。


「ひ、ひぃっ……! お、お前たち、覚えていろよ! こんな女、こちらから願い下げだ!」


セドリック様は逃げるように馬車へ飛び込み、砂煙を上げて去っていきました。

嵐のような静寂が、農園に戻ります。


「……リゼット。大丈夫だったか」


クラウス様が、心配そうに私の顔を覗き込みました。

氷の公爵様とは思えない、柔らかな眼差しです。


「ええ、ありがとうございます。クラウス様がいなくても、スコップで追い払うつもりでしたわ」


「……貴様なら、やりかねないな」


彼はふっと口角を上げました。

その笑顔があまりに眩しくて、私は慌てて視線を野菜に向けました。


「さあ、仕事に戻りましょう。今日は大根の収穫が待っていますわ」


「ああ、手伝おう。俺も、貴様のそばにいたいからな」


さらりと言われた言葉に、耳が熱くなります。

元婚約者へのカタルシスと、目の前の騎士様からの甘い言葉。

私の農園ライフは、どうやら思っていた以上に刺激的になりそうです。


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