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【第2章追加!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第1章

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第4話:氷の公爵と甘いトマト


かごいっぱいの真っ赤な実を、私は丁寧に摘み取りました。


太陽の光をたっぷり浴びたトマト。

それは宝石のルビーよりも鮮やかで、皮が弾けそうなほど張り詰めています。


「ふふ、今日もいい出来ですわ」


私が独り言を漏らした、その時です。

農園の入り口から、カシャカシャと鎧の擦れる音が聞こえてきました。


「……リゼット。今日も、たぞ」


そこに立っていたのは、クラウス様でした。

隣領の主であり、泣く子も黙る「氷の公爵」です。

……ですが、今の彼にそんな面影はありません。


彼の視線は、私の手元にあるトマトの籠に釘付けです。

まるでお菓子を待つ子供のような、純粋な眼差し。

私は苦笑しながら、彼を木陰のテーブルへ促しました。


「いらっしゃいませ、クラウス様。今日は一段とお早いお着きですわね」


「……ああ。昨夜も、貴様の野菜を食べたおかげでよく眠れた。朝起きると、体が勝手にここへ向かっていたのだ」


「それは一種の中毒症状では……? まあ、健康的なので良しとしましょう」


私は水魔法で冷やしたトマトを、皿に乗せて差し出しました。

味付けは一切なし。

素材の味だけで勝負するのが、私の農園のスタイルです。


クラウス様は待ちきれない様子で、トマトを一つ手に取りました。

そのまま、大きな口でガブリと。


「…………ッ!」


彼の肩が、目に見えて震えました。

氷のように冷淡だと言われる彼の頬が、トマトと同じくらい赤く染まっていきます。


「……甘い。いや、甘いだけではない。濃縮された太陽の味がする」


「それはお褒めに預かり光栄ですわ。魔法のスプリンクラーで、土の水分量を厳密に管理しましたから」


「これなら……。これなら、戦場での士気も一瞬で回復するだろうな。リゼット、やはり貴様を王都へ返すわけにはいかない。俺が……全力で守る」


クラウス様が、真剣な眼差しで私の手を取りました。

ごつごつとした、剣を握る男の人の手。

ですが、その指先は驚くほど優しく私の手に触れています。


「あら、プロポーズのつもりかしら? 騎士団への納品契約は、すでにお受けしたはずですが」


「……契約以上の、守護だ。貴様の才能を、あのような愚かな王太子に二度と利用させたくない」


彼の言葉には、隠しきれない独占欲が混じっていました。

私のような「地味な女」に、ここまで執着してくれる方が現れるとは。

人生、何が起こるかわかりませんわね。


「嬉しいですわ。でも、クラウス様。守っていただくだけでは、私の気が済みません」


私は立ち上がり、農園の向こう側にそびえ立つ「黒の森」を指差しました。


「あちらの森の資源、私に独占利用させていただけますか? 最高の肥料を作るには、あの森の腐葉土が必要なのです」


「……あそこは魔物が出る危険な場所だぞ」


「クラウス様がいれば、問題ありませんわ。私は土を、貴方は私を。支え合うのが、良いパートナーというものでしょう?」


私は彼に向かって、いたずらっぽく微笑みました。

氷の公爵と呼ばれた男が、完全にたじろいでいます。

どうやら、彼は私のような押しの強い女性には弱いようですわね。


「……わかった。俺が森の魔物を掃討し、貴様のために道を作ろう。その代わり……」


「わかっています。毎日、美味しい朝食をご用意しますわ」


「ああ。それでいい。それがいい」


彼は満足げに頷き、最後のトマトを口に放り込みました。

その顔には、かつての酷い隈はもうありません。


クラウス様という最強の味方を得て、私の農園はさらなる飛躍を遂げることでしょう。

一方で、王都ではそろそろ「リゼット不足」による問題が深刻化しているはず。


ですが、今は目の前の平穏を楽しみましょう。

私は、もう二度と、サービス残業(いじわるな王太子の世継ぎ問題)には付き合わないと決めたのですから。

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