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【第2章追加!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第1章

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第3話:魔法の無駄遣い、始めました


「……おはようございます。よく眠れましたか?」


私が声をかけると、ベッドの上の男性は跳ねるように飛び起きました。


「……っ!? ここはどこだ。俺は、何を……」


彼は鋭い視線で周囲を警戒しました。

しかし、そこは殺風景な戦場ではなく、私の魔導テントの中です。

昨日、倒れた彼を土魔法で浮かせ、ここまで運ぶのは少し骨が折れましたわ。


「ここは私の自宅です。貴方、私の畑で寝落ちしたのですよ。覚えていらして?」


「畑……? ああ、あの赤い実を食べてから、記憶が……」


クラウス様は、自分の大きな手を見つめて呆然としています。

そして、はたと気づいたように自分の顔を触りました。


「……体が、軽い。三日以上、まともに眠れていなかったはずなのに」


「それは良かったですわ。土の魔力とイチゴのビタミン、それに私の『安眠魔法』が効いたのでしょうね。さあ、顔を洗ってきてくださいな。朝食ができていますわよ」


「朝食だと? 断る。俺は急ぎで……」


グゥゥゥゥ……。


彼の言葉を遮るように、立派な腹の虫が鳴り響きました。

クラウス様の白い頬が、一瞬で耳まで赤くなるのが見えました。

意外と可愛らしいところがある方ですわね。


「遠慮なさらず。開拓者の朝は早いのです。しっかり食べないと動けませんわ」


私は彼をキッチンスペースへ促し、スープ皿を並べました。

本日の献立は、昨日耕した直後に植え、生活魔法で急速成長させた「早生カブ」のポタージュです。


「……なんだ、この香りは」


クラウス様が、おずおずとスプーンを取りました。

王都の貴族が食べるスープといえば、脂ぎった肉の茹で汁か、保存用の干し野菜を煮込んだ茶色の液体です。

ですが、目の前にあるのは、すりつぶしたカブの白さと、絞りたてのミルクが混ざり合った乳白色のポタージュ。


彼は一口、慎重に口に含みました。


「…………っ!」


「お味は、いかが?」


「……甘い。いや、滋味深いというのか。喉を通り、腹に落ちた瞬間、体中の細胞が喜んでいるのがわかる。これは、本当にカブなのか?」


「ええ、今朝そこで抜いてきたばかりのものですわ」


彼はそれから無言で、しかし恐ろしい勢いでスープを平らげました。

付け合わせに出した、外はカリカリ、中はふわふわのパン(これも魔法の石窯で焼きました)も、あっという間に消えていきます。


「ふう……。すまない。取り乱した。こんなに食事が喉を通ったのは、数年ぶりだ」


彼は満足げに息をつきました。

目の下の隈が、昨日より少しだけ薄くなっている気がします。


「お粗末様でした。さて、食後の運動に、私の『新作』を見ていただけますか?」


私は彼を連れて、テントの外へ出ました。

そこには、昨日耕したばかりの黒い大地が広がっています。


「クラウス様、見ていてくださいませ」


私は地面に描いた魔法陣に、指先から魔力を流し込みました。

すると、農園の四隅に設置した木製の筒が、シュルシュルと回転を始めます。


パァァァァァッ!


筒の先端から、細かな霧状の水が空中に舞い上がりました。

朝日を浴びて、農園にいくつもの虹が架かります。


「……自動スプリンクラー、魔導回路式ですわ。これで水やりの時間はゼロ。私は二度寝ができるという寸法です」


「……リゼット、と言ったか。貴様、正気か?」


クラウス様が、信じられないものを見るような目で私を見つめています。


「今、貴様が使った回路……。それは、王都の魔導師たちが心血を注いで作る『防衛結界』の応用だろう? それを、ただの水やりに使っているのか?」


「『ただの』とは心外ですわね。美味しい野菜を作るのは、国の守りを固めるより重要ですわ。お腹が空いては戦も、恋も、政治もできませんもの」


私は腰に手を当てて、胸を張りました。

前世では機械任せだった作業も、この世界では魔法で再現できます。

これぞ、成り上がりへの効率化というものです。


「……貴様は、面白い女だな」


クラウス様が、ふっと口角を上げました。

それは氷が解けるような、不器用ながらも優しい微笑みでした。

その整った顔立ちで笑われると、少しだけ心臓に悪いですわね。


「俺は隣領の領主、クラウス・ド・ラングレーだ。この土地の変化、そして貴様の能力……。領主として見過ごすわけにはいかない」


「あら、営業停止命令でも出されますの?」


「逆だ。貴様の野菜を、俺の騎士団に納入する気はないか? 値段は貴様の言い値で構わない。ただし……」


彼は一歩、私に歩み寄りました。

高い身長の彼に見下ろされると、ふわりと森の冷たい香りが鼻をくすぐります。


「また、あのスープを飲ませてくれ。あれを食べれば、俺はもっと働ける気がする」


「……いいでしょう。ただし、定時上がりと十分な睡眠は守っていただきますわよ? 働きすぎの方は、私の農園には似合いませんから」


私は彼の胸元を指差し、いたずらっぽく笑いました。

冷徹公爵と噂される彼の顔が、また少し赤くなったのを、私は見逃しませんでした。


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