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【第2章追加!】婚約破棄された悪役令嬢が枯れた大地で掴んだのは最高の安眠でした。  作者: 月雅
第2章

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第10話:深まる謎と二人の時間


幸せとは、温かい布団と静寂の中にこそあります。


聖教国との騒動が終わり、私の農園にはようやく本来の平穏が戻ってきました。

新しい従業員(聖女エリナ様)は、昼間の労働で疲れ果てて泥のように眠っています。

邪魔な枢機卿も、二度と来ないでしょう。


今夜こそ、私は誰にも邪魔されず、朝までぐっすり眠るのです。


「……リゼット。髪が乾いていないぞ」


寝室のソファでくつろいでいたクラウス様が、手招きをしました。

彼は私が風呂上がりなのを気遣い、タオルで優しく髪を拭いてくれます。


「ありがとうございます、あなた。……ふふ、くすぐったいですわ」


「じっとしていろ。風邪をひいたら、農園の主が泣くぞ」


クラウス様の指先が、私の首筋に触れます。

その体温が心地よくて、私はうっとりと目を閉じました。

氷の公爵と呼ばれた彼が、今ではこんなにも甘やかしてくれる。

これぞハッピーエンドの余韻というものです。


ズン……。


不意に。

床の下から、重く低い振動が伝わってきました。


「……?」


クラウス様の手が止まります。

私も目を開けました。


ズン……ズン……。


地震ではありません。

一定のリズムを刻む、人工的な振動。

それはまるで、地底の巨人が歩いているような、あるいは巨大な心臓が脈打っているような音でした。


「……リゼット。気づいているな?」


「いいえ。何も聞こえませんわ。これは風の音です。もしくは、私の空耳です」


私はかたくなに現実逃避を試みました。

布団に入りたいのです。

今からトラブル対応なんて、絶対にお断りです。


「……風の音にしては、食器棚のグラスが震えているが」


「気のせいです。さあ、寝ましょう。明日はカブの間引きが待っていますもの」


私がベッドに潜り込もうとした、その時です。


ドォォォォォン!!


農園の裏手――「黒の森」の方角から、爆発音のような轟音が響き渡りました。

窓ガラスがビリビリと震え、私の安眠への渇望も粉々に砕け散りました。


「……はぁ」


私は深く、重く、ため息をつきました。

どうやら神様は、私に定時退社を許してくださらないようです。


「行くぞ、リゼット。俺のそばを離れるな」


クラウス様が瞬時に騎士の顔になり、剣を手に取りました。

私も諦めて作業用ブーツを履き、壁に立てかけてあった「黄金のスコップ」を握りしめます。

パジャマの上にガウンを羽織り、私たちは夜の闇へと飛び出しました。


外に出ると、空気は異様なほど張り詰めていました。

農園の作物は無事ですが、森の奥から不気味な青白い光が漏れ出しています。


「リゼット姉様~……? 何か、音が……」


別棟から、寝ぼけ眼のエリナ様が出てきました。

ナイトキャップを被り、枕を抱えています。

危機感ゼロです。


「エリナ様はここにいて。決して畑から出ないように」


「はぁい……むにゃむにゃ……」


彼女を安全地帯に残し、私とクラウス様は「黒の森」へと走りました。

目指すのは、以前のピクニックで見つけた「謎の遺跡」です。


森の奥へ進むにつれ、振動は激しさを増していきました。

そして、遺跡のある広場にたどり着いた時。

私たちは信じられない光景を目にしました。


「……なんだ、これは」


クラウス様が絶句します。


苔むしていたはずの石造りの遺跡が、今は青白い光を放ちながら変形していました。

地面が大きくひび割れ、土煙を上げています。

まるで、地下から何かが這い出そうとしているかのように。


「古代の封印が……解けたというのか?」


「恐らく、エリナ様の魔力でしょうね。あの規格外の『育成魔法』が、眠っていた遺跡の動力源になってしまったのですわ」


私が冷静に分析している間にも、地割れは広がっていきます。


ギギギギ……ガシャン!


金属が擦れるような、甲高い音が響きました。

そして、裂け目の中から、巨大な影が姿を現しました。


それは、土と岩、そして錆びついた金属で構成された巨人――ゴーレムでした。

高さは五メートルほどでしょうか。

無骨なボディには、あの遺跡と同じ「植物と歯車」の紋章が刻まれています。


「下がるんだ、リゼット! こいつは危険だ!」


クラウス様が私の前に立ちふさがり、剣を構えました。

ゴーレムの頭部にある単眼が、赤く明滅します。

敵意があるのか、暴走しているのか。

圧倒的な質量を持った鉄の腕が、ゆっくりと持ち上がりました。


しかし。

私はその腕の先についている「パーツ」を見て、思わず声を上げました。


「……あれ?」


「どうした!?」


「クラウス様、よく見てください。あのゴーレムの右手……武器ではありませんわ」


巨大な鉄の拳。

その先端には、鋭い爪や剣ではなく、三本の爪がついた熊手のような器具が装着されていました。

そして左手には、回転する円盤状の……カッター?


「あれは……『自動耕運アーム』と『草刈りユニット』?」


私の前世の記憶が、激しく警鐘を鳴らしました。

あれは破壊兵器ではありません。

古代文明が作り出した、超巨大な「全自動農業ロボット」です。


『ピピ……起動……農地……カクニン……』


ゴーレムから、ノイズ混じりの機械音声が聞こえました。

赤い瞳が、私……いいえ、私の背後にある「肥沃な農園」を捉えます。


『タガヤス……タガヤス……』


「待ちなさい! 耕すのはいいけれど、そこはもう耕してありますわ!」


私の叫びも虚しく、古代の農業マシンは、制御不能のまま農園へ向かって進撃を開始しました。

その一歩が踏み出されるたび、森の木々がなぎ倒されていきます。


「くそっ、止めるぞ!」


クラウス様が地を蹴り、私も黄金のスコップを構えて続きました。


聖教国との戦いが終わったと思ったら、今度は古代文明の遺産との戦い。

私の安眠と、平穏な新婚生活は、またしてもお預けのようです。


でも、まあ。

あんな便利な機械が手に入れば、農作業はもっと効率化できるかもしれません。


「スクラップにして、再利用してやりますわ!」


私は不敵に笑い、夜の森を駆け抜けました。

ドクロヶ原の地下に眠る「本当の秘密」が、いま目を覚ましたのです。


(第2部 完)


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