5-4. 人間の時代:王国の分裂
王国の運営が安定してくると、貴族は少しずつ傲慢になっていきました。それに伴って税が年々重くなっていきます。
直接の切っ掛けは新しい金鉱脈が発見された事でした。農民の税の一環として労役によって鉱夫が徴発されました。掘り出した金は労役の成果なので所有権が貴族にあります。鉱夫は無償で金を掘るだけでした。これに農民の不満が爆発したのでした。
貴族への反発は大きくなりましたが、その軍事力は農民にとっては恐怖の対象です。武力闘争は無理。そこで逃散と言う手段に訴えました。
この逃散には辺境の3つの村が参加しました。人数にしておおよそ500人強になります。これを極少数ですが下位貴族と司祭が支援しました。
旧トロール帝国の廃棄された城塞都市に立て籠もっただけでは、貴族が本気になれば都市ごと滅ぼされてしまいます。そこで旧トロール帝国を出る道を選択しました。
道無き道を進むその逃避行は水と食料を確保しながらの困難な旅でした。飢えと渇きに悩まされましたが、幸い、病気は殆ど発生しませんでした。
そして約1年。
かつての農耕民族の畑の跡地に辿り着きました。そこは森林の中に大麦とライ麦の草原が点在していました。草原に混じって各種の野菜も群生していました。野生化した牛や山羊や豚がその草原に養われていました。森林には林檎やベリー類などの果物もありました。
他方で魔物も増えていました。ゴブリンが大量発生し、オークも多く、森の奥にはオーガも居て、互いに潰しあっていると言う惨状です。
しかしここを目的地と定めた一行は魔物に怯えながらも駆除に励みました。これには同行した貴族が大活躍しました。しかし切りが無く、これが魔物狩りの専門職の基盤となりました。
やがて生活基盤が確立します。そこで元貴族1~2人が王国に戻って勧誘活動を始めました。
まずは酒場で噂話を広めました。大麦とライ麦の自然の畑が広がる理想郷。司祭が居て神の恩寵もあります。そして強欲で傲慢な貴族は居ません。
この話は農村にも広がり、辺境からの逃散が続きました。領主は移住禁止令等で引き留めようとしますが止まりません。
貴族はこれを権力闘争に利用しました。逃散に遭った領主は降格などで処分。そこに中央貴族の三男や四男などを配置。逃散跡の農地には農村の余剰人員を住まわせました。そもそもどうして一夜にして村人が消え去るのかについては追及する事はありませんでした。そこまでの脅威とは認識しなかったのです。
移住先は、人口が数千人に達した所で建国宣言しました。政治体制は共和制。村の顔役と元貴族による合議制によって政府を運営しました。
そして共和国として正式な外交使節を王国に送りました。王国としては共和国を国としては認めない立場をはっきりさせ、正式な国交は成立しませんでした。
他方で貿易は黙認されました。共和国としては王国にあるトロールの遺産は何でも欲しい。逆にベリー類や羊毛や鹿の毛皮を輸出しました。これらの輸送は行商人が担いましたが、規模が小さくて貴族の利権にはならないのが黙認の理由です。
そして権力闘争の具として都合が良いので王国から共和国への人口の移動も黙認されたのでした。




