5-2. 人間の時代:充実期
人間が統治機構を確立しつつある頃に大陸全体で温暖化が始まりました。農産物の豊作が続きました。麦畑の端、都市から離れている為に手入れの行き届かない場所は数十年から百年程で森林化しました。
温暖化から程無くして魔法の衰退期も終わりました。凶星だった彗星の消滅が原因です。
【メタ註:氷とドライアイスの塊だったので太陽熱で蒸発しました】
そのため森林等で魔物が発生し増加するようになりました。ドラゴンとエルフとドワーフはまた魔法を使い始めました。
エルフとドワーフにはトロール滅亡当時の様子を知る者が多く残っていました。そのため人間には自分達の存在を知られたくありません。王国への斥候隊に参加する者達は魔法等で正体を隠していました。
人間の貴族が没落すると奴隷の管理にも隙が出来て、稀に逃げ出す事があります。そう言った奴隷を保護して逃亡を支援するのも斥候隊の役割となっていました。
人間の王国内でも魔物が発生して増加しました。これは貴族が対処するようになります。南征終了後の軍の主な存在理由となりました。
魔物に対処する為に、貴族が古伝を紐解いて、失伝して久しい騎馬民族の魔法を再興し始めます。こう言った魔法の知識は貴族が囲い込みました。手柄を挙げた騎兵に褒美として魔法を授けたりしました。
一般市民にも、貴族と接点のある富裕層から少しずつ魔法が広がっていきました。
教会が魔法を丹念に集めて文書化する作業に着手します。やがて教会が最も魔法に詳しくなりました。
魔物の脅威が増えたとは言え、人間の人口は少しずつ増えていきました。
葬儀の基本的な段取りも確立しました。平民の乳幼児の場合は家族葬です。家族のみが参列、棺に花を添えて火葬にします。家族以外が参列しないのは、乳幼児死亡率はおよそ50%にも上り、手間暇を掛けていられないという事情もあります。
平民の少年少女以上や貴族の場合はしっかりとした儀式を行います。聖典の詩の朗読、聖歌斉唱、参列者全員で棺に花を詰めて、火葬します。
大体6~7歳頃を境に死亡率は激減します。それまでの乳幼児は天使と呼ばれます。天使が亡くなった場合は帰天と言われます。
このため7歳に無事の成長を祝う風習が生まれました。具体的には洗礼と祝賀会です。
洗礼は教会へ入信する儀式です。天使が人間として地上社会に定着した事も意味するようになりました。
祝賀会は基本的に身内での祝いの席です。時期は収穫祭の後、小麦が終わって一段落する7月に実施されます。平民は教会で挨拶し、夜は家族で小さな晩餐会を開きます。貴族は身内や神職を呼んでティーパーティーを開き、夜は家族で晩餐会になります。
農村の人口増加により、余剰と見做される人員が発生します。開墾が間に合わない場合は増えた人口は余剰人員となってしまいます。
男性は労働力として村に必要とされるケースが多い。但し労働力としての男性は村が結婚を許しません。
その点で女性は余剰人員と見做されるケースが多い。力が弱く体力が劣る事、妊娠・出産・育児の時期は農業労働が困難である事、がその大きな理由です。
【メタ註:だから現代地球においても女性は劣るのだと言う主張では全くありません】
余剰人員は都市に出ます。そのため都市は女性比率が少し高めになります。仕事としては職人や商人の手伝いや町の雑用係が中心です。
余談ですが町の雑用係となった余剰人員は冒険者と呼ばれます。余り者として追い出されたのではなく、刺激を求めて自ら出てきたのだという自尊心から自分達を冒険者と呼んだのが始まりです。
女性には娼婦の道もあります。都市の娼館は村の余剰男性の捌け口としても機能しました。ここで娼館の用心棒から派生して裏稼業が誕生しました。そして裏稼業のシノギとして賭場が発生、都市住民の娯楽の一つとなりました。
教会は禁欲推奨の教義から、こう言った娼館や賭場は賤業として否定する立場にあります。賤業に就かざるを得ない人々は自責の念から信心深くなる傾向があります。
【メタ註:現代でもアメリカギャング等で事例があります】
都市の商人は互助会を組織し、やがて商人ギルドに発展しました。商人ギルドは不利益回避の為に統治機構へ介入するべく、貴族へのロビー活動や団体交渉を活発に行いました。
商人ギルドに対抗する形で同職ギルドが設立されました。これは職業毎の職人の組織です。当初は商人に対する団体交渉を行っていました。
同時に冒険者ギルドも誕生しました。冒険者の身分の管理をします。つまり保証人としての組織になります。また新人教育も実施します。商人や職人の場合は先輩や親方が新人を教育しますが、冒険者にはそう言った習慣が無い為にギルドが新人教育を実施します。
そして冒険者ギルドを通して魔物退治の依頼が来るようになりました。魔物退治は、襲われてからの依頼では間に合いません。賃金制で村の周辺警戒、索敵殺害を行います。手に負えない魔物や猛獣を発見したら速やかに軍へ連絡します。
これは農村にも貨幣経済の波が来た事を意味します。冒険者に森林巡回の依頼料を払う必要性が発生しました。巡回の依頼料を稼ぐ為に商品となる物を作る必要に迫られました。具体的には換金作物、加工食品、秋に保存食を多く作って都市で売る、等です。
しかし現金でのやり取りばかりだった為に契約書は必要ありませんでした。そのため農民には文字は不要でした。但し貨幣を数える必要から簡単な算数は求められるようになりました。
こうしてギルドが設立されギルド同士の紛争や交渉を仲裁する形で貴族が関わるようになります。やがて貴族がギルドの代理交渉人を引き受けるようになりました。後にギルド長として貴族が入るようになり、ギルドは貴族の利権を管理する組織に少しずつ変貌していきます。




