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<16・記録。>

【固定】

●いおりん @ioriori_origo

最近嫌な予感がするので、このツイート固定して状況報告していきます。

最新からでも見られるけど、時系列順に見たい人はこのコメントのリプ欄を見てください。他の人の質問にもある程度は答えます。

現在住んでいる八幡マンションで、俺が経験したことをまとめます。




 日付は、今から二か月ほど前から始まっている。

 伊織が引っ越しをしたほんの直後のことだ。同時に、彼が失踪する直前でもある。

 八幡マンションという名前も出しているし、これは伊織のアカウントで間違いないと思っていいだろう。どうやらこの時にはもう、何か異変を感じ取っていたということらしい。由梨はその固定ツイートをクリックして、リプ欄を確認していくことにする。





●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

最初におかしいと思ったのは、変な夢を見たことでした。

このマンションを紹介してくれたのは、201号室に住んでいる百●さんという人です(伏字とはいえ名前出してごめんなさい)

僕の大学の先輩で、LINEで連絡を取り合っていました。その人が、僕の内定先の会社を知って近くていいよとこのマンションを紹介してくれたのです。僕はいい場所が見つからなくて困っていたので助かりました。



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

このマンションには変わった人が多いけど、皆さんとても親切でした。大家さんも優しいし、うまくやっていけると思っていました。

ところが、その日からおかしなことが起きるんです。子供が走り回る音が一晩中聞こえてきたり、ベランダを子供達が走り抜けていったりするんです。

 当たり前ですが、隣の家のベランダと簡単に行き来できる仕組みになってるわけじゃないのに



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

嫌な予感が強くなってると思って、少し管理会社の人に詳しいことを聞きました。四階で亡くなった人がいるというのは聞いていたので、そのせいなのかと思ったんです

でも403号室で亡くなったその人は年配の人で、しかも事件性はなかったとのこと。

子供の幽霊が出るとか、そういうのは変です。



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

405号室の方が(3さんと呼びます)昔403号室の人と仲良くしていたと言ったので、話を聞いてみることにしました。最初は追い返されていたんですけど、飼っていた犬がなついてくれて、段々と話をしてくれるようになりました。

403号室の人は十年前に亡くなったけど、亡くなる前からちょっとおかしくなっていたと



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

俺たちが住んでいるマンションの近くには川が流れていて、403号室の人は、そこに双子の兄妹の死体が流れ着いてきたのを見たと言いました。それで警察を呼んだら、死体はすぐに消えてしまって、悪戯扱いされてしまったと。

そんなはずはない、死体は確かにあったのに!と3さんに愚痴を言っていたそうです。



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

やがて、403号室の人は何かに怯えるようになり、同じ階の住人にも当たり散らすようになってしまったそうです。

やばいものが流れ着いてきてしまった、封印の儀式をしなければ誰も助からない、この土地全てが汚染されて飲み込まれてしまう、みたいなことを言っていたと。

やがてゴミ屋敷を作って、老衰して死んでしまったと



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

403号室の人には霊感があったらしいです。本人はそう言っていたと。

なんかの儀式で生贄にされた双子が祟っていて、その呪いが川を通じて流れ着いてきたというのです。

彼はその双子の名前を「まこちゃん」「まとくん」と呼んでいたと。二人は一つになって「まことさま」になったと



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

まことさま、を鎮めないと、封印しないとと言っていたと。でも、3さんはそんな妄言は信じていなかった、あいつが勝手におかしくなっただけだと言っていました

俺はそう思わなかった。だって、やっぱりこのマンションには何かがいると思う。

それがまことさま、とやらなら早くなんとかしないと、多分みんな助からないと




「……どういうこと?」


 由梨は困惑した。

 まず第一に、201号室の住人である。現在住んでいるのは六田さん一家だった。両親がいないことが多く、陽気な兄弟が二人でいることが多いあの家である。弟の六田遥は、確かこう言っていたはずだ。




『俺ら子供の頃からこのマンション住んでんですけどね。子供の目撃例が増えたの、四階のじーさんが死んでからが多いかなーとは思います、ハイ』




 子供のころから住んでいる。

 それなのに、伊織に情報を教えてくれたという大学の先輩も、201号室に住んでいたという。

 その先輩の名前は『百●』とのこと。百瀬とか、百田とか、多分そういう苗字なのだろう。間違っても『六田』をそのように略すことはないはずだ。この時点で矛盾が生じている。これはどういうことなのか。


――やっぱり、川から何かが流れ着いてきたのは間違いない、のか。それを封印しようとして、失敗して、403号室の九崎辰夫さんは亡くなった……?


 その流れてきたもの、は双子の兄妹の死体らしい。が、その死体は警察には見つけられなかった、らしい。

 とすると、九崎は幻を見たのだろうか。ただしただの幻覚ではなく、誰かが意図的に見せた幻だとしたら。例えば、もうずっと前に死体は流れついてきていて、その死体を誰かがマンションの地下にこっそり埋めたとかして隠していたら。


――それで、このマンションを祟ってる?……ありうるけど。


 怪異の名前は、兄がまとくん、妹がまこちゃん。いや、実は姉と弟という可能性もあるだろうか。

 二人あわせて『まことさま』。――一体どこから流れてきたのだろう。そして、どのような儀式で生贄にされてしまったのだろう。

 それがわからなければ、彼らを浄化するようなことなどできないのではないだろうか。





●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

恋人をこのマンションに招くつもりだったけど、やめます

嫌な予感が強くなってる

一回二回、このマンションに入っただけなら大丈夫かもしれないけど、やっぱり心配だ

彼女が取り憑かれでもしたら耐えられない

俺にはどうしようもない



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

窓をドアを叩いてくる叩いてる叩いてくる叩いてくる

うるさいうるさいうるさいうるさい、

ついに首をしめられた



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

このままでは殺される

やっぱり地下に、地下に行ってなんとかするしか



●いおりん @ioriori_origo

 返信先: @ioriori_origoさん

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ごめんゆり




「……ごめんって、なに?」


 マウスを握りしめ、由梨は呟く。


「ごめんってなんだよ、なんなんだよ……!」


 このマンションに、地下があるなんて聞いたことがない。だが地下室に行く方法とやらがあるのだろうか。彼はそこに行って、行方不明になってしまったと?

 もしそうなら、地下に行けばそこに伊織がいるかもしれないし、怪異の元凶に会える可能性もゼロじゃない。問題は、ただ闇雲に乗り込んでいっても恐らく返り討ちにされるだけだろうということだ。


――早く、伊織を助けたい。でも、まだ、情報が足らない……!


 まことさま、と呼ばれる双子についてもっと知らなければ。伊織は地下に行って、その怪異の元凶に会ったのだろうか。そこで何かを失敗したから神隠しに遭ったのか、それとも失敗なんぞしなくても地下へ行った時点で終わりだったのか。

 自分に残された時間は長くない、そんな気がしてならない。死にたくはないし、オバケが怖いという気持ちは当然ある。

 それでも由梨の中に〝ここから逃げる〟という選択肢がない理由はただ一つ。伊織を助けるために、自分がここに来たからだ。自分だけ助かって、逃げてもなんの意味もない。そんなことをしたら最後、自分は一生自分自身を許せなくなってしまうだろう。


「……そうだ」


 思い出したのは、杏奈のことだ。




『私、大学のレポートで……ちょっと前に、ここの川について調べたことがあったんです。正確には、このかまら川の本流の、鎌口かまくち川の方なんですけど」




 彼女は大学のレポート課題で、かまら川と鎌口川について調べていたと言っていた。そして、あの川に嫌なものが流れ着きやすいということも言っていたはずだ。

 今でも川を気にしていた様子だったし、調査を続けているのかもしれない。自分が知らない情報を持っている可能性も充分に考えられるだろう。

 特に、かまら川および鎌口川近隣から、流れこんできたモノ。どの村から流れてきたのか、どういう儀式のものだったのかがわかれば。


「……行ってみるか」


 時刻はもう夜の九時を回っている。

 少々非常識な時間だが――これ以上、この件を後に回す気にはなれなかった。

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