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第三十四話 あっさり撃沈


 皇城の高い外壁が、まるで遠くの山並みのように黒い影を作り、向こう岸にずっと続いている。

 それに並行して堀が巡っている。堀の水は晶峰山から流れてくる清水で、覗きこむと底に魚影がはっきりと見えた。七彩に輝く水面は幻想的な風景を作っている。

「きれいねえ」 

 宝珠皇宮後宮へ入宮して以来、後宮と皇城の一部しか知らない花音にとってはすべてが物珍しい。こんなに美しい風景なら尚更だ。

 堀に沿った皇城側の石畳を、簾と花音は歩いていた。


 堀の水面に七彩を作るのは、石畳のところどころに立っている石灯籠だ。石灯籠には灯火石を使って灯りが入っており、埋め込まれた透かし硝子ガラスを通って灯りは七色の光を作るのだった。


 堀を覗きこんでいる小さな花音の背中に、簾は大きく深呼吸して切り出した。

「なあ、花音。七夕仮装大会って知ってるか?」

「うん、この前知ったよ。友だちの女官に聞いたんだ」

「そ、そうか。それな、俺と一緒に――」

「簾はどんな仮装するの?」

「仮装?!」


 そういえば、参加者は軽く仮装するのだと聞いた。七夕にちなんだ仮装らしいが、簾たち禁軍十五衛の衛兵は巡回途中での参加なのでいつもの鎧姿だ。


「いや、仮装はしないんだ」

「えー、そうなの? 簾の仮装、見たかったのに」


 見たかった?!


 もしかして、これは脈アリか?


「仮装はしないけど、俺、花音と短冊を――」

「あたしも仮装しないけどね。仮装したら食べにくそうだから」

「へ?」


 かぶってきた言葉に思わずマヌケな声が出る。食べにくい?


「食べにくいって、何が???」


 すると花音はとてもうれしそうに目をキラキラさせて言った。


「ご馳走に決まってるでしょ! 新作の点心はもちろんだけど、他のお料理もすっごく楽しみ! 食べ放題なんて、こんな機会めったにないし」


 浮かれる花音の目の前で、簾は魚のような目になる。



(そういえば、立食形式で夕飯を食べられるから、巡回当番じゃない者も来ることを勧められていた。後宮厨の美味い飯が食える、って花より団子かよ!女官を見つける絶好の機会だろうが! って呆れられている浮かれた大食漢の同僚がいたな。

 そして目の前のまさに俺が誘おうとしていた女もご馳走ご馳走と浮かれているな)


「簾? どうしたの?」

「いや……、あのさ、念のために聞くけど、おまえ食べ放題のつもりで七夕仮装大会行くの?」

「うん!」

 花音は満面の笑みで即答した。

「友だちが心細いから一緒に行こう、って誘ってくれたんだ」


 友だちは食べ放題に誘ったわけではないぞ決して、と思ったが、黙っておくことにする。


(……負けた。食べ物に。あっさり散った)



 でも負けたのが「男」ではなくてちょっぴり安心した簾だった。

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