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9話 こんなことだろうと思っていた

 騎士団本部は、騎士達が己の技を磨くための訓練場がある。

 一度に数十人が訓練を行えるほど広い。

 訓練用の木人なども用意されていた。


「すみません、団長。訓練に付き合ってもらい」

「本当に悪いですよ」


 他に訓練場を使用する騎士がいるため、ユースティアナは猫をかぶっていた。

 ただ、それでも無表情を保つのが難しい様子で、とても苦々しい声のトーンだ。


「……デートだと思ったのに、ばか」

「なんて?」

「なんでもありません。それよりも、訓練を行いましょうか」

「ええ、お願いします……って、うぉ!?」


 超高速の斬撃。

 ユースティアナの本気に慌てつつ、ギリギリのところで回避する。


 あ、危ない……

 訓練用の木剣を使っているとはいえ、今の、直撃したら死んでいたぞ。

 実力を隠すことを忘れて、ついつい本気で避けていた。


「あの……団長?」

「どうしたのですか、訓練なのでしょう? ならば、全身全霊で、徹底的に、完膚なきまでに稽古をつけてさしあげますね」

「……怒っていますか?」

「いいえ。まったく、これっぽっちも」


 絶対に怒っているじゃないか。

 でも、その理由がわからない。


「では、いきますよ」

「おぉ……!?」


 ……その後、俺は、宣言通り徹底的にしごかれた。




――――――――――




「はぁ……今日は運がないな」


 訓練を終えて、シャワーを浴びて、中庭で火照った体を冷ます。

 そうして一人になったところで、俺はため息をこぼした。


「なんだろうな? 今日のユースティアナ、過去最高で不機嫌だったが……」


 俺、なにか気に触ることをしただろうか?


 ここ数日を含めて、己の言動を振り返る。


「……なにもしていないよな」


 たまたま虫の居所が悪かったのだろうか?

 でも、朝は機嫌が良さそうに見えたのだけど……


 ユースティアナとは長い付き合いだけど、まだまだよくわからないところが多い。

 女性っていうのは、けっこう謎が多いものだ。


「やあ、ジーク」


 振り返ると、可憐な美少女……ではなくて、美男子がいた。


 肩で切りそろえた銀色の髪は、陽光を浴びてキラキラと輝いていた。

 細身の体と、スラリと伸びた手足。

 宝石のようなスカイブルーの瞳。

 ふわりとした笑顔は天使のよう。


 どこからどう見ても美少女なのだけど、しかし、彼女ではない。

 『彼』なのだ。


 エル・ワールウインド。

 俺と同じ、第三に所属する新米騎士で、友達だ。


「ごめんね。聞こえちゃったんだけど、運がないってどういうこと?」

「あー……さっき、団長に稽古をつけてもらったんだけど、ボコボコにされた。そういうこと」

「なるほど。でも、僕も見ていたけど、ジークはすごいと思うよ」

「なんで?」

「だって、あの団長を相手に、一試合分、きっちり10分戦っていたじゃないか」

「防戦一方というか、やられっぱなしなのに?」


 木剣で叩かれて痣ができた腕を見せる。

 すると、エルも同じように痣ができた腕を見せてきた。


「僕は、1分も保たなかったよ」

「エルも稽古をつけてもらっていたのか」

「うん。他にも、みんな、稽古をつけてもらっていたよ。団長直々に稽古をつけてもらうなんて、なかなかない機会だからね」

「すごい人気だからな」

「僕らの団長だからね。強いだけじゃなくて綺麗で、もしも、にっこり笑顔なんて見せられたら、ドキッとしすぎて死んじゃうんじゃないかな? あはは」

「……そうだな」


 そういう笑顔、ちょくちょく見ています。

 ……などと言えるわけがなくて、適当に相槌を打っておいた。


「ジークは、どうやって団長を相手に10分も保ったの? 見ていたけど、よくわからなかったんだけど」

「どうもこうも……ひたすらに防御に徹して、軽い斬撃を避ける防ぐことは諦めて全て捨てて、重い斬撃のみに注意を払っていた、って感じか?」

「……」

「どうしたんだ?」

「あの団長の超高速の斬撃を見て、一つ一つの威力を判別していたの……?」

「そうだけど?」

「……前々から思っていたけど、ジークも大概だよね」

「そうか? これくらい普通だろう」

「ぜんぜん普通じゃないよ。わりと無茶苦茶なレベルだよ」


 そうなのか……正直、わりと当たり前のことだと思っていた。


 ……少しまずいか?

 いざという時に備えて、俺は、自分の実力は隠している。

 バレないように目立たない必要がある。


 今度から、稽古も手を抜くか?

 いやしかし、ユースティアナ相手に手を抜けば、本気で殺されるかもしれないからな……

 とても悩ましい。


「ジークは、この後、時間あるかな?」

「あるけど」

「シャワーを浴びた後みたいでごめんなんだけど、僕の稽古に付き合ってもらえないかな? 団長との稽古が良い刺激になっていて、もう少しがんばりたい、っていう気持ちなんだ」

「わかった、構わない」

「ありがとう」


 にっこりと笑うエル。

 その笑顔は、天使のようで、どこからどう見ても美少女で……

 勘違いをして、彼に告白する騎士が現れるのも時間の問題だろうな。




――――――――――




「ふむ……この程度ですか、情けないですね。これは、訓練メニューを見直さないといけませんね」


 再び訓練場に移動すると、ユースティアナが呆れた様子でため息をこぼしていた。

 その周りには、気絶して、死人のように倒れている騎士達が。


「……なんだろう、あれ?」

「……たぶん、多対一の訓練をしたんだろうな。多人数なら団長に一撃浴びせられるかも、と」

「……その慣れの果て、っていうわけ?」

「……バカだな。複数で団長を倒せるわけがないだろう、団長だぞ」

「……なんでジークがちょっと誇らしげなのかな?」

「む?」


 ユースティアナの視線がこちらに向いた。


 表情は変わらないのだけど……

 俺には、獲物を見つけた猛禽類のように、ニヤリと笑ったように見えた。


「ちょうどいいですね。ジーク、エル。もう一度稽古をつけてあげましょう」

「……お前のせいだぞ、エル」

「……今度、ご飯を奢るよ」


 俺達は、そこらに転がっている木剣を手に取り、ユースティアナに立ち向かい……

 そして、ボコボコにされた。


 ……本当、今日のユースティアナは不機嫌極まりないけど、なぜなんだ?

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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