8話 いつもの日常
トラブルが起きたものの、魔物の討伐は完了した。
俺達、第三騎士団は王都に帰還する。
計10日の遠征。
第三騎士団は疲労を癒やすため、3日の休暇が与えられた。
――――――――――
「久しぶりの休日だ。のんびり、だらり、ゆるりと過ごそうと思っていたんだけど……」
王都内にある、騎士団本部。
敷地内にある、第三騎士団が使用する塔。
その中にある、騎士のために用意された寮。
その一室が俺の家だ。
部屋はそれほど広くないけれど、生活をする上で必要なものが一通り揃っていて、不自由はまったくない。
寮の設備も整っているため、わりと快適に過ごすことができる。
「……なんて、ユースティアナが俺の部屋にいるんだ?」
「あ、おはよう、ジーク。起きた?」
目を覚ましたら、なにやら良い匂いが。
寝室を出てキッチンに移動すると、エプロンをつけたユースティアナがいた。
エプロンの下は私服だ。
ミニスカートを履いていて……ええい、動くな。
奥の白いものがチラチラと見えているだろうが。
「なにをしているんだ?」
「ご飯を作っているんだよ。ジークってば、いつも適当なものばかり食べているじゃない。だから、私が作ってあげようかなー、って」
「栄養は考えているよ」
「どうせサプリでしょ? そんなものじゃダメだよ。ちゃんとしたものを食べないと。と、いうわけで……朝ご飯はどうする? お米? ご飯? それとも……ラ・イ・ス♪」
「一択じゃねえか」
「私、っていう選択肢もあるよ?」
「腹を壊しそうだな……」
「あー、ひどいっ。せっかく可愛い幼馴染が手料理を作ってあげているのに」
「自分で言うか、こやつ。そもそもお前、どうやって入ってきた?」
「そこから」
見ると、玄関の扉の鍵が開いていた。
鍵を閉めてからキッチンに戻る。
「真正面から? それ、まずくないか? 思い切り話題になるだろう」
「大丈夫。誰にも見られないように、暗殺者が使うような歩行術を使って、私という存在をごまかしたから。あと、死角をついたりもしたかな? それと、超高速で移動して視認することすら許さなくて。で、最後は団長権限で手に入れた合鍵を使ったんだ」
「能力の無駄遣いがすごいな……」
とはいえ、今更の話か。
ユースティアナが部屋に忍び込むのは、これが初めてじゃない。
ちょくちょくあることだ。
任務がない時は、俺とユースティアナの間の接点は薄く、素の顔を見せる機会が少ない。
それでストレスが溜まり……
限界点に到達すると、こうして、無茶をしても俺のところにやってくる。
信頼されている。
頼りにされている。
そこは嬉しいのだけど……
「その猫かぶり、なんとかした方がいいど思うけどな」
「余計なお世話ですぅー。っと……はい、できたよ。ほら、席について」
焼き立てのトーストと、この前、ユースティアナが作り、部屋に置いておいた手作りジャム。
ふわふわのスクランブルエッグと、厚切りベーコンを焼いたもの。
サラダと果物をカットしたもの。
悔しいが完璧な朝食だ。
「ほら。一緒に食べよう」
「……いつもありがとう」
「ふふ、どういたしまして♪」
「「いただきます」」
唱和して、ユースティアナ特製の朝食を食べる。
「どう?」
「美味しいよ」
「えへへ、よかった♪」
「また料理の腕を上げた?」
「だといいな。一応、練習したり、新作のレシピを探したり、アレンジ方法を取り入れたりしているよ」
「料理、好きなんだな」
「好きといえば好きだけど……でも、料理っていうよりは、誰かに食べてもらうのが好きかな」
「食べてもらうのが?」
「うん。ほら、今、ジークは美味しそうに食べてくれているよね? そういうところを見るの、好きだよ♪」
「そっか。確かに、自分が作ったものを美味しそうに食べてくれたら、嬉しいよな」
「むぅ……」
なぜか、ユースティアナが不満そうな顔に。
「どうしたんだ?」
「ジークって、鈍いとか言われない?」
「まさか」
鈍いなんて言われたことはない。
むしろ、ユースティアナよりも鋭い自信がある。
間者を探す役を担っているからな。
「はぁあああ……」
という話をしたら、盛大なため息をこぼされてしまう。
「そういうところが鈍いんだよ」
「どういうところだ?」
「知らない……ばかっ」
ユースティアナは、唇を尖らせて拗ねてしまう。
なぜ拗ねる?
彼女が不満そうにする理由がまったくわからない。
この年頃の女の子は謎に満ちている。
「そうだ。ユースティアナは、この後、時間はあるか?」
「まあ……一応。団長の私も、休暇はちゃんともらえるからね」
「なら、ちょっと付き合ってくれないか?」
ユースティアナは、なぜか顔を赤くして、ガタッと椅子を鳴らした。
「どうしたんだ?」
「えっと、その……う、ううん、なんでもないよ」
ユースティアナは自分の胸に手を当てて、深呼吸をする。
「落ち着いて、落ち着くの、ユースティアナ……今のは、一緒に来てほしい、っていうだけ。それだけの意味。それ以上の意味なんて込められていないよ」
「本当に大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫大丈夫。それで、付き合ってくれ、っていうのは?」
「ユースティアナと一緒に行きたいところがあるんだ」
「え?」
ぽかん、という顔に。
その頬がみるみるうちに赤く染まる。
「それって、デー……」
「ユースティアナも休暇中だから、無理にとは言わないけど……」
「行く! 絶対に行くっ!!!」
「お、おう……」
なぜ、そんなに食い気味なんだ……?
不思議に思いつつ、たっぷりとジャムを塗ったトーストをぱくりと食べるのだった。
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