7話 夢?
目が覚めたら、なにもかも解決していた。
私は手当てを受けて、砦に運ばれて……
ライラックや他の騎士達も無事。
ドラゴンは影も見当たらない。
いったい、どういうことだろう?
私は小首を傾げつつ、ライラックに尋ねたのだけど……
「いえ……それが、私もどういうことなのか……」
ライラックもわからないみたいだ。
報告を受けて、すぐに駆けつけてくれたらしい。
しかし、現場には倒れた私だけ。
ドラゴンは影も形も見当たらなかったという。
「団長は心当たりは?」
「……ありませんね。皆を逃がした後、1時間ほど交戦しましたが……わかりません」
「い、1時間も交戦したのですか……? ドラゴンと……?」
「結局、やられてしまいましたけどね」
「1時間も戦うことができたのなら、それは、すさまじい快挙かと。他の騎士団長でも、せいぜい10分が限界ではないかと」
「ありがとうございます。ただ、負けては意味がありません。次は負けないように……いえ、今は別に考えることがありますね。ドラゴンの件ですが、団員達に口止めを。下手に話が広がればパニックに陥ります」
「了解いたしました」
「ただ、上には報告をあげなければなりません。すぐに報告書を作成するので、ライラックは、伝令の準備をしてくれますか?」
「伝令はもちろん、報告書も私が作成しましょう」
「しかし……」
「団長は怪我人なのですよ? 責任感が強い方というのは理解していますが、しかし、あまり無理はなさらないでください。あなたの代わりは誰にも務まらないのですから」
「……わかりました。では、ここは素直に甘えさせていただきますね」
「はい。では、ゆっくりとお休みください」
ライラックが一礼してテントを出ていった。
私一人になる。
「……」
自分の手を見た。
それから、体をぺたぺたと触る。
「うーん……なんで私、生きているんだろう?」
あの時、確かにドラゴンの一撃を受けた。
即死ではないものの、かなり危険な状態だったはずだ。
その場ですぐに手当をしないと助からないはずなのに……
「でも、あそこにいたのは私だけだよね?」
団員は、皆、逃がした。
通りがかりの冒険者がいたなんて話も聞いていない。
気がつけば、私は村の野営地で目が覚めて。
気がつけば、なにもかも解決していた。
「……夢?」
ついついそんなことを考えてしまう。
「でも……」
ぼんやりと……本当におぼろげだけど、誰かに助けられたような気がする。
とても優しくて。
とても温かくて。
いつも頼りにしている人。
「ジーク……なのかな?」
「呼んだ?」
「ひゃあ!?」
完全な不意打ちで、ついつい妙な声が出てしまう。
「じ、ジーク……?」
「見舞いに来たんだけど……よかった。元気そうだな」
「あ、うん。なんだか、自分でもよくわからないけど、大した怪我は負っていなくて……」
「ドラゴンと戦ってそれだけの怪我で済んだのなら、幸運としか言いようがないな」
「だよね。さすがの私も、あの時は死ぬかと思ったよ。あははー」
「笑い事じゃないだろ、まったく」
「いたっ」
ジークにデコピンをされてしまう。
むぅ……
私、一応、怪我人なのに。
「あまり心配をさせないでくれ。寿命が縮む」
「……ジークは、私の心配をしてくれたの?」
「当たり前だろう」
「そっか……そうなんだ、えへへ♪」
ジークが心配してくれた。
そのことは申しわけないと思うのだけど……
でも、同時に嬉しく思う。
ついつい、ニヤニヤしてしまう。
って、いけない。
こんな態度を見せていたら、また怒られてしまう。
「ねえねえ、ジークは知らない? ドラゴンのこと」
「ごめん、わからない。俺、ユースティアナを助けようと思って戻ったんだけど、その時は、もうドラゴンは消えていた」
「それで、倒れている私だけを見つけた?」
「ああ。本当は、ドラゴンを探すべきだったのかもしれないけど……ユースティアナのことが心配だったから、連れ帰ることを優先した」
「そっか」
……もしかしたら、ジークが助けてくれたのかな?
ふと、そんなことを思う。
なにもわからないけど……
でも、彼に優しく抱き上げられたような気がした。
とても安心したことを覚えている。
ジークが助けてくれた?
だとしたら……最高だ。
嬉しい。
嬉しい。
嬉しい。
自然と笑顔になっちゃう。
ニヤニヤしちゃう。
団長として情けないところは見せられないのだけど、でも、どうしても表情をコントロールすることができない。
「どうしたんだ、ニヤニヤして?」
「なんでもない」
私の予想が正しいとしたら、ジークは私の王子様だ。
ピンチの時、いつも駆けつけてくれる。
小さい頃、私は誘拐されたことがある。
お金目的の誘拐だ。
……実はその時、ジークも一緒に誘拐されていた。
ジークと一緒に遊んでいて……
犯人は、目撃者を残さないためにも、ジークも誘拐した。
そこで、『殺す』という発想に至らなかったことは不幸中の幸いだ。
私は怖くて泣いた。
でも、ジークは泣かない。
ジークだって怖かったはずなのに、私のことを気にしてくれて、励ましてくれた。
きっと助けが来るから大丈夫。
俺が一緒にいる。
そう、何度も何度も声をかけてくれた。
だから私は、助けが来るまで耐えることができた。
ジークのおかげだ。
彼がいなかったら、私の心はどうなっていたか……
「ねえ、ジーク」
「うん?」
「もしかして……」
「……もしかして?」
「……ううん。やっぱり、なんでもないや」
ジークに聞いても、たぶん、本当のことは話してくれない。
だから、今は問いかけるのはやめておいた。
ジークが知らないっていうのなら、無理に問いつめるようなことはしたくない。
話さないのはそれなりの理由があるんだと思う。
……まあ、全部、私の勘違いっていう可能性もあるんだけど。
「とりあえず、元気そうで安心した。ゆっくり寝て、休んでくれ」
「……もう行っちゃうの?」
「俺がいたら邪魔だろう?」
「そんなことないよ。むしろ……側にいてほしいかな」
「子供か」
「子供でいいよ。今は……ジークに甘えたいな」
「……まったく」
ジークはやれやれとため息をついて、椅子を引っ張ってきて、ベッドの隣に座る。
それから手を差し出してきた。
「寝るまで手を繋いでおくよ」
「うん♪」
私はジークの手を取り……
そして、そっと目を閉じた。
うん。
良い夢を見ることができそうだ。
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