表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/35

5話 絶体絶命

 完全無敵に思える『氷の妖精』だけど、一つ、弱点があることを俺は知っていた。




――――――――――




 3日後。

 魔物の討伐が開始された。


 ユースティアナが率いる討伐部隊が、事前に場所を特定しておいた魔物の巣に向かう。

 その部隊に俺も含まれている。


 他に、一部、新米騎士が混ざっているものの……

 適度に緊張しつつ、適度に気を抜いているようだ。


 良い状態だ。

 これなら十全の力を発揮することができて、問題なく魔物を討伐することができるだろう。


 その予想は正しく……


「A班、魔物の掃討を完了しました!」

「同じく、B班、掃討を完了しました!」

「C班も完了です!」


 山の麓にある洞窟へ突入。

 中にいたゴブリンの群れと、その他、複数の魔物の討伐に成功した。


 こちらの被害はゼロ。

 怪我人もいない。

 多少、武具が損耗しただけで、完璧な勝利だ。


「みなさん、おつかれさまでした。そして、よくやってくれました。文句のつけようのない、完璧な作戦内容だったと思います」


 ユースティアナに褒められて、皆は喜びに顔をほころばせる。


「しかし、この後、問題が起きないとも限りません。子供の遠足と同じです。最後まで気を抜くことのないよう、引き続き、気を引き締めて任務に望んでください」

「「「はっ!」」」


 褒めた後、気を引き締めさせる。

 ユースティアナらしい、うまいやり方だ。


 その後、魔物の死体を適切に処理して……

 それから、洞窟が再び魔物の巣にならないように、聖水で浄化しておいた。

 永遠にというわけにはいかないが、これで、しばらくは魔物が寄りつくことはないだろう。


「ジーク」


 作業中、こっそりとユースティアナに声をかけられた。


「なにか違和感はある? 強い魔物の気配とか」

「今のところは……けど」

「けど?」

「……嫌な感じがする。あまり長居はしない方がいいかもしれない」

「了解」


 俺の言葉を疑うことなく、すぐに信じて受け入れてくれる。

 ありがたい。


「みなさん、作業状況は?」

「魔物の処理、完了しました!」

「洞窟の浄化、完了しました!」

「探索も完了です。特に問題はありません!」

「わかりました。では、村へ帰投します。さきほども言いましたが、各員、くれぐれも油断のないように。油断するような者がいた場合、魔物にやられるよりも先に……私が斬ります」

「「「はっ!!!」」」


 ユースティアナの言葉で、騎士達はさらに気合が入ったようだ。

 油断なんて欠片も見せず、完璧な陣を組み、周囲を警戒しつつ村への帰路を辿る。


 ……ただ、それは唐突に、突然に、前触れもなくやってきた。


 背中を走る悪寒。

 死神に鎌を突きつけられているような恐怖。

 それらを感じて、俺は慌てて叫ぶ。


「伏せろっ!!!」


 半数ほどの騎士が盾を構えつつ、伏せて……

 残り半数は、とにかく、がむしゃらに身を低くした。


 直後。


 ゴォッ!!!


 どこからともなく飛来した爆炎が、俺達の頭上で弾けた。

 熱と衝撃が吹き荒れて、近くにいた騎士が吹き飛ばされそうになり、急いで手を伸ばして掴んだ。


「くっ……な、なんだ!? いったい、なにが起きた!?」

「お、おい……あれを……」


 一人の騎士が青い顔をして空を指さした。


 天空の支配者。

 生きる伝説。

 全てを破壊する獣。


 生態系の頂点に君臨する、最強最悪の魔物……ドラゴンだ。


「なんてこった……どうして、こんなところにドラゴンが……」

「やばい、死んだ……これはもう、死んだ……」

「死んだフリとか通用しないかな……しないよな、ははは……」


 騎士達の戦意が一気に落ちる。

 それも仕方ない。

 ドラゴンといえば、天災級の魔物だ。

 討伐するとなれば、第三だけではなくて、ほぼ全ての騎士団を動員しなければいけない。


 それだけの相手だ。

 騎士達が死を覚悟してしまうのも無理はない。

 当たり前のことと言える。


 ただ……


「落ち着きなさいっ!!!」

「「「っ!?」」」


 ユースティアナの一喝で、騎士達の震えが止まる。


「騎士とあろうものが、この程度のことでうろたえてどうするのですか!? ドラゴン? それがなんだというのですか! 戦場では、ドラゴンよりも厄介で恐ろしい相手がたくさんいるのですよ!」

「そ、それは……」

「……いや、団長の言う通りだ。こんなことで怯むなんて……」

「そうだ、やってやる!」

「よろしい。恐怖で体が動かない、なんて愚か者はいませんね? そのような者がいたら、ドラゴンの餌になる前に、私の剣の錆にしてあげます」


 この時ばかりは、その言葉は本気だったかもしれない。

 ここで動けなくなれば、死は確定だから。


「私がヤツを引きつけます。その間に、各員、撤退を」

「し、しかし団長……!」

「いくらなんでも団長だけじゃあ……俺達も戦います!」

「足手まといはいりません」


 ピシャリと言い放つ。

 それに反論できる者はいない。


「早く撤退を」

「で、でも……」

「三度、言わせないでください。私の命令に従えないというのなら、やはり、ドラゴンの餌になるよりも先に斬り捨てますよ?」

「くっ……総員、撤退だ!」


 ライラック副団長の代わりを務める上級騎士が号令を出した。

 各騎士は迷い、悔しさをにじませつつ……

 しかし、この場はそうするしかないと自分を納得させて、撤退を始める。


「ガァアアアアアッ!!!」


 逃さないとばかりにドラゴンが急降下してきたが、


「あなたの相手は私です!」


 ユースティアナがドラゴンを迎え撃つ。

 驚くべきことに、彼女は、攻城兵器に匹敵すると言われているドラゴンの突撃を、剣一本で受け止めてみせた。

 そこで終わらず、カウンターを叩き込む。


 ドラゴンは大きく吹き飛ばされて、悲鳴を上げて、周囲の木々を巻き込みつつ転がる。


「す、すごい……あのドラゴンを相手に、まったく負けていない」

「むしろ、押しているんじゃないか?」

「さすが団長だ!」

「感心している場合じゃないぞ。団長が時間を稼いでくれているんだ。俺達は、少しでも早く撤退しよう!」


 浮足立つ騎士達を、今度は俺が喝を入れた。

 騎士達は、ハッとした様子で、表情を引き締める。


「そ、そうだな。俺達がいても足手まといになるだけだ……」

「それよりも、早く村に戻って、副団長に知らせないと!」

「行くぞ!」


 今、自分にできことを。

 やるべきことを。

 それを思い出した騎士達は、急いで撤退を開始した。


 ドラゴンの追撃が飛んでくるものの……


「させませんっ!」


 ユースティアナが体を張って攻撃を止める。


 騎士達はその勇姿に湧くのだけど……

 俺は、気が気でない。


 ……これが彼女の弱点だ。


 冷酷に、クールに振る舞っていても、でも、その心はとても優しい。

 誰一人、騎士を見捨てるつもりはない。

 怪我をさせるつもりもない。

 そのためならば、己の体も盾にしてしまう。


 優しすぎるんだ、彼女は。


 平気で他人のために自分を犠牲にしてしまう。

 そのことを知っているからこそ、俺は、焦る。

 ドラゴンのような強敵を相手に、背中を気にしつつ戦っていたら……確実に負ける。


「急ごう!」


 俺は強い言葉を飛ばして、騎士達を撤退に導いた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


「面白そう」「続きが気になる」と感じていただけたのなら、

『ブックマーク』や『☆評価』などで応援していただけると嬉しいです!

皆様の応援がとても大きなモチベーションとなりますので、是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ