35話 俺にだけタメ口を使う件について
一発逆転が起きることはなく、クライブはそのまま逮捕された。
俺が調べ上げた証拠以外にも次々と余罪が明らかになっているらしく……
極刑はないものの、一生、外に出られないだろうとのこと。
そしてユースティアナは、クライブの悪事を弾劾するため、あえて捕まった、ということにしておいた。
ついでに、手柄も譲っておいた。
ユースティアナは、そんなことはできないと拒んだものの……
『氷の妖精』である彼女が捕らえられた、となると、第三全体の士気に関わる。
また、第三を疎ましく思う連中に良いネタを与えてしまうことになる。
そう説得したら、渋々ではあるものの受け入れてくれた。
第四の団長が逮捕されるという、スキャンダラスな事件。
しばらく王都がざわついたものの……
それも時間と共に落ち着いて、また、平穏な日々が戻ってきた。
――――――――――
「総員、団長の言葉に傾注!」
「「「はっ!!!」」」
副団長の言葉に、訓練場に集合した俺を含めた第三のメンバーは、ピシリと背を伸ばした。
「みなさん、こんにちは。第四の事件は知っていますね? 団長が逮捕されるという、異例の事態となりました。このようなことが二度とないように、私達は、騎士として研鑽を積んでいかなければなりません。なので……」
ユースティアナが腰の剣を抜いた。
「今日は、一人一人、私が直に稽古をつけてあげましょう」
「「「えぇっ!?」」」
第三のメンバーが悲鳴をあげた。
それはそうだろう。
稽古だろうと、ユースティアナは一切手加減しない。
翌日、打撲や筋肉痛で涙を見ることは確定だ。
顔を青くする第三のメンバーを見て、ユースティアナは、あくまでも平静に……そして、冷たく問いかける。
「どうしました? もしかして、嫌なのでしょうか?」
「「「……」」」
そうです、と答えられず沈黙を守るしかない。
「確かに、私の課す稽古は過酷と自分でも理解していますが……それが苦しい、ということでしょうか? だから、嫌なのでしょうか?」
「「「……」」」
「甘えないでください」
「「「っ!?」」」
氷のように冷たい一言に、第三のメンバーが固まる。
「第四のようにならないように、私達は、体だけではなくて心も鍛えなければなりません。そして、健全な精神は健全な肉体に宿ります。なればこその訓練です。苦しいから、などという甘えた理由でそれを投げ出すことなど、私は許しません。あぁ、もしも体調不良の者がいるのならば、それは申し出てください。そこまで無理をさせるつもりはありませんから」
「あ、自分は……」
「その者は後日、きっちりと追加で稽古をつけてあげましょう」
「……なんでもありません」
逃げ場はないと知り、第三のメンバーが絶望の表情に。
ただ、いくらかは「やるぞ!」という感じで奮起していた。
フェルミーもその一人だ。
うん。
彼女は、本当に強くなるだろうな。
「では、始めましょうか。本気でいきますが、安心してください。きちんと治癒師を呼んでいますから。死なない限り、何度でも立ち上がり、戦ってもらいますよ?」
そうして……
後に『地獄の1日』と呼ばれる、第三のしんどい1日が始まるのだった。
――――――――――
「あーっ、疲れたー!!!」
夜。
俺の部屋。
どこからかやってきたユースティアナがベッドに転がり、ぐぐっと手足を伸ばした。
「それ、俺の台詞なんだけど」
「私の方が疲れているよー……第三の団員、全員を相手にしたんだからね? 良いところ悪いところ、しっかりと教えて、頭も使っていたんだから」
「……俺には、一方的に叩きのめしていたようにしか見えなかったけどな」
「なにか?」
「いいえ、なにも」
「もうっ、ジークは、もっと私に優しくしないとダメ!」
拗ねた様子で、しかし、ユースティアナは俺に寄りかかってきた。
そのまま、コテンと俺の膝を枕にしてしまう。
「えへへー、ジークの膝枕ー」
「お前、それ好きだよな」
「なんか安心感があるんだよね。こう、お母さんのところに帰ってきた、みたいな?」
「俺はお前のおかんじゃない」
「おかーさん♪」
「聞いてないな、こいつ……」
ごろごろと甘えてくるユースティアナ。
この子が『氷の妖精』と恐れられている最強の団長と言われても、誰も信じないだろうな。
「ねえねえ、ジーク。今日は、一緒にご飯食べよう?」
「いいけど……どこに行く? 食堂で済ますか?」
「ううん、ジークの作ったご飯が食べたい」
「……俺、大したものは作れないぞ?」
戦闘訓練は独自に積み重ねてきたものの……
家事全般は、かなり適当だ。
「ほら、あれ。お肉たっぷりの野菜炒めがいいな♪」
「それなら作れるけど、市販のタレをかけただけだぞ?」
「それでいいんだよ。ジークが作ってくれる、っていうことが大事なんだから」
「ま、それでいいなら作るけどな」
「うん、よろしくー」
「……で、いつまでそこに? そうやって寝ていられたら、キッチンに行けないんだが?」
「もうちょっとだけ」
「まったく……」
わがままな猫を飼っているような気分だ。
でも……
なんだかんだ、この猫は可愛い。
いつまでも、ずっと大事にしていたいと思う。
「ねえ、ジーク」
「うん?」
「いつもありがと」
「突然、どうしたんだ?」
「んー……なんとなく、言っておきたいな、って」
「そっか」
穏やかな時間が流れる。
これを守るためならば、俺は、なんでもするだろう。
……なんでも、だ。
「ねえ、ジーク」
もう一度、ユースティアナが俺を呼ぶ。
彼女は、まっすぐにこちらを見て……
「私のために、がんばって美味しいご飯を作ってね♪」
『氷の妖精』と呼ばれ、恐れられている第三騎士団、団長のユースティアナは、俺にだけタメ口を使う。
ハイファンタジーだけど、なんかイチャイチャしたものが書きたく、書いてみました。
どうだったでしょうか?
楽しんでいただけたら嬉しいです。
また別の作品を書く予定なので、そちらもよろしくお願いします。




