24話 邪神
広い空間の中央に邪神。
そして、複数の騎士が包囲網を敷いていた。
その中に、ユースティアナやライラック副団長の姿もある。
よかった、無事みたいだ。
……とはいえ、手放しで喜べる状況じゃないか。
「フェルミー、こっちへ」
「ふぐっ!?」
飛び出していきそうになったため、慌てて手を引いて、近くの物陰に隠れた。
「どうしたんですか、先輩? すぐに加勢しないと!」
「新米の俺達が?」
「うっ……」
「下手に飛び込んでも足手まといになるだけだ。まずは、様子を見よう」
「……了解です」
ちょっと不満そうではあったものの、フェルミーはおとなしくなった。
身を潜めつつ、様子を窺う。
「ルー……ラー……♪」
邪神が歌う。
同時に魔力が急激に膨れ上がる。
「総員、散開! 全力回避っ!」
ユースティアナの合図で騎士達が後退して……
直後、爆炎が広がる。
炎は生き物のように暴れ狂い。空間を埋め尽くしていく。
ただ、ユースティアナはその攻撃を予測していた。
だからこその全力回避で……
ありったけの距離をとっていた騎士達は、邪神の攻撃を完全に回避してみせた。
「続けて回避っ!」
再びユースティアナの号令が響いた。
もう一度、邪神が歌い、再び炎が広がる。
今度は空間を埋め尽くすようなものではなくて、一点を狙う、精密攻撃だ。
炎が刃となり、ユースティアナに襲いかかる。
「はぁっ!!!」
一閃。
ユースティアナは剣圧で炎をかき消してみせた。
……あいかわらず、とんでもないな。
魔力で作られた炎をかき消すなんて、そうそうできることじゃない。
「各員、団長を援護せよ!」
他の騎士達は前に出ることはない。
ユースティアナの邪魔をしてしまうと理解しているからだ。
代わりに、後方から矢と魔法を放ち。
遠距離でユースティアナに治癒魔法とバフをかけて。
それと、邪神にデバフをかける。
部隊全体が一つになっているかのような、とても精密な連携だ。
客観的に見て、ユースティアナ達が優勢だ。
危ういところも見つからず、完璧な戦いを見せている。
この状況を維持できるのなら……いや。
多少のことがあっても、すぐに体勢を立て直すことができるだろう。
心配しすぎだっただろうか……?
「先輩、先輩。やっぱり、団長はすごいですね」
「ああ。邪神を相手にまったく負けていない……というか、圧倒しているな」
「すごいなあ……あたしもいつか、団長みたいに」
「ただ……」
どうしてだろう?
優勢のはずなのに、嫌な予感は消えてくれない。
目を閉じて周囲の気配を探る。
……俺達以外の反応はない。
邪教徒は、たぶん、邪神を召喚するため、自らを生贄にしたのだろう。
一人も反応がない。
また、獣や魔物の反応もない。
戦況を揺るがすような不確定要素はない。
そしてまた、ユースティアナが油断することもない。
ここから敗北に繋がるパターンは考えられないのだけど……
「ラララー……♪」
なんだ?
突然、邪神が歌い方を変えた。
邪神が歌うのは、死の祝福を授けるため、と言われている。
だからこそ歌いつつ、攻撃をする。
その歌い方を変えたということは……
攻撃パターンが変化する?
俺の予測は正しく、邪神が生み出した炎が漆黒に変化した。
それらは無数に分裂して……
やがて、一つ一つが人の形を取る。
質では敵わない。
ならば数で勝負しようと考えたようだ。
「……まずいな」
一対一ならユースティアナが負けることは、まずない。
ただ、仲間を巻き込んだ複数対複数となると……
彼女は仲間を守るために、迷うことなく自分の体を盾にする。
下手をしたら……
「……フェルミー」
「はい?」
「ちょっと、やってほしいことがある」
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