23話 トラブルは続く
ユースティアナ率いる精鋭部隊が洞窟に突入して、30分ほどが経った。
俺達、後方支援部隊は、いつ、なにが起きても対処できるように、警戒しつつ待機。
日頃の訓練のおかげで、誰一人、気を抜くことなく、適度な緊張感を保つことができている。
「……先輩」
警戒待機ではあるものの、多少のおしゃべりは問題ない。
というか、それも許されないほど気を張っていたら、すぐに疲弊してしまう。
「ちょっと聞きたいんですけど……人を斬ったこと、ありますか?」
「ある」
「……どんな感じでした?」
「そうだな……」
昔のことを思い返した。
……少しだけ顔をしかめる。
「嫌な感じだよ。すごく嫌な感じで……今も忘れられない」
「そうですか……」
「実戦が怖いのか?」
「……すみません」
「それでいい」
「え?」
ぽんぽんと、フェルミーの頭を撫でた。
「戦うことを恐れるのは当然だ。命を奪うのも奪われるのも嫌だからな。それを怖くないと思うようになったら、それは、人として大事なものを失ってしまったことになる。だから、怖くていいんだよ」
「先輩も怖いんですか?」
「怖いよ。でも、大事な人を失うことの方がもっと怖いから……だから、戦う」
ユースティアナは強い。
でも、限界はある。
それに優しいから、誰よりも無理をしてしまう。
そんな彼女を支えるために、俺も強くなった。
助けられるだけじゃなくて、俺からも手を差し伸べられるように。
「任務のため、とか。そういうことを考えて戦わない方がいい。それよりも、自分がなにをしたいか? なにを守りたいか? それを一番に考えるべきだ」
「……守るもの……」
「難しいかもしれないが、それを忘れなければ、フェルミーは立派な騎士になれるさ」
「……はい! ありがとうございます」
迷いは消えたようだ。
彼女なら、立派な騎士になるだろう。
「……それにしても」
嫌な予感がするな。
ユースティアナなら、邪教徒が相手でも遅れを取ることはない。
一人で殲滅が可能だ。
例え部下を人質に取られたとしても。
罠を仕掛けられていたとしても。
その全てを突破して、突き抜けていくだけの力を持つ。
彼女なら問題はない。
ないはずだけど……
「ちっ」
嫌な予感が消えてくれない。
むしろ、より大きくなり、心をざわつかせてくる。
「フェルミー」
「はい?」
「俺のこと、なにか聞かれたら適当にごまかしてくれないか?」
「えっ、どういうことですか」
「ちょっと中の様子を見てくる。嫌な予感がするんだ」
「えっ、えぇ……!? そんな、勝手をしたら……」
「大丈夫。様子を見ることも後方支援の一貫だ。なにか起きていたら、その対処をしないといけないからな」
日々の訓練でそう教えられているため、問題はない。
「でも、なにか起きたっていう証拠は……」
「それを調べるためにも、様子を見に行くんだ。大丈夫。入口の辺りを調べるだけだから」
「……でも、ごまかしてくれって頼むということは、まずいことをするんですよね?」
バレたか。
「頼む、俺のことは見なかったことにしてくれ」
「……先輩は、なにかが起きていると考えているんですね?」
「ああ」
「なら、私も一緒に行きます」
「え、それは……」
「でないと、他の人に報告しますよ?」
「……わかった、降参だ」
押し問答をする時間が惜しいのと……
たぶん、フェルミーは本気だろう。
なら、味方にしてしまった方が早い。
危険が潜んでいるかもしれないが……
その時は、俺が守る。
「じゃあ、他に見つからないように、こっそりと行くぞ」
「はい!」
「声」
「……はい」
そして、俺は周囲の目をかいくぐり、フェルミーと一緒に洞窟に突入した。
足跡が残っているため、ユースティアナ達の跡を追いかけるのは簡単だ。
慎重に。
それでいて、できるだけ速く追いかけていく。
そうして辿り着いた先で待っていたものは……
「ルルルルル……♪」
3メートルほどの巨体。
人の形をしているものの、その実態は、人と大きく異なる。
目があるところに目がない。
口があるところに口がない。
木人のようで。
それでいて、全身に禍々しいオーラをまとい。
カタカタと不気味に震えつつ、歌声を響かせていた。
「せ、先輩……あれって……」
「ああ……邪神だ」
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