21話 邪教徒
「総員、団長の言葉に傾注!」
「「「はっ!!!」」」
ライラックの言葉に、俺を含めた騎士達がピシリと背を伸ばした。
「みなさん、こんにちは」
ユースティナは、いつものように氷の妖精モードで話を進める。
「これから私達は王都を出立して、半日ほどのところにある、山の麓の洞窟へ向かいます。その洞窟には、人々に害を為す邪教徒が潜み、日々、怪しげな儀式を行っているとの報告を受けています。私達の任務は、邪教徒の確保。及び、儀式の完全なる破壊です」
いつになくユースティアナはピリピリしているようだ。
放つオーラが半端ではなくて、いくらかの団員が思い切り緊張している。
普段のユースティアナは、氷の妖精モードだとしても、ここまで他人を威圧することはないのだけど……
今日は状況が違う。
邪教徒が相手なのだ。
邪教徒というのは、邪神や破壊神など、悪神を崇める犯罪者だ。
目的のためなら手段を選ばず、平気で他人を傷つけるという危険な思想を持つ。
過去、邪教徒が起こした事件で、数百人規模の被害が出たこともある。
邪教徒は王国にとっての天敵のようなもので……
さすがのユースティアナも平常心ではいられないようだ。
「作戦は事前に伝えた通りに。なにか質問のある人は?」
「「「……」」」
「問題ないようですね。各々、自分の務めを全力で果たしてください」
迷うような間。
ややあって、ユースティアナは言葉を続ける。
「今回の任務は危険度が高いです。もしかしたら、死者が出るかもしれません」
「「「……」」」
騎士達の間に不安が広がる。
ただ、それを見越した上で、ユースティアナは言葉を重ねる。
「しかし、私達は騎士です。盾となって人々を守り、剣となって敵を打ち砕かなければいけません。それは、なぜか? 誇りのため? 国のため? いいえ、違います」
ユースティアナは、一瞬、こちらを見た。
「……大事な人を守るために、です」
「「「……」」」
「家族、恋人、友人……みなさんの大事な人を思い浮かべてください。それこそが、あなた達が戦う理由なのです。その人達の笑顔を守るための戦いなのです」
「「「……」」」
「故に、必ず生きて帰りましょう。任務を完遂させましょう。大事な人のために……それもまた、騎士としての務めです」
「「「はっ!!!」」」
……こうして、俺達は邪教徒を討伐するために王都を出立した。
――――――――――
「先輩、先輩」
行軍の途中、隣にフェルミーがやってきた。
「その、なんていうか……」
「どうしたんだ?」
「えっと、その……き、緊張をなくす方法とか知りませんか?」
見ると、フェルミーはカタカタと震えていた。
無理もない。
彼女は騎士になったばかり。
それなのに邪教徒と戦うなんて……
3歳の子供が魔王に挑むようなものだ。
恐れて当然。
震えて当然。
「俺達の任務は後方支援だ。直接、邪教徒とやり合うことはないさ」
「でも、後方支援も大事じゃないですか? あたし達が失敗したら、そのせいで前線が壊滅することも……」
「よくわかっているじゃないか」
「うぅ、緊張がぁ……」
「よくわかっているから、十分だよ」
ぽんぽん、とフェルミーの頭を軽く撫でた。
「自分の務めの重さをちゃんと知っている。緊張はするかもしれないが、失敗することはないさ」
「……先輩……」
「緊張していいんだよ。それでいい。むしろ、しない方がまずい」
「でも……」
「自分のやるべきことをしっかりと理解している。それが大事なんだ。だから、今のまま、きっちりと行こう」
「緊張はなくせない……というか、なくさない方がいいんですね? さすが先輩です。そんな風に考えたことはありませんでした」
「フェルミーより半年は長く騎士をやっているからな。多少のアドバイスはできるさ」
「はい、ありがとうございます!」
フェルミーはにっこりと笑い、
「うぅ……でも、そうなると、作戦が終わるまで、ずっとこの緊張と戦うことになるんですね……胃が荒れそう」
顔を青くしてしまう。
ちょっとかわいそうだけど……
でも、こればかりはどうしようもない。
場数を踏んで慣れていくだけだ。
「大丈夫だ」
「ふゅ?」
「いざとなれば、フェルミーのことは俺が守るよ」
それが先輩としての務めだろう。
「……」
「どうしたんだ?」
「い、いえっ!? な、ななな、なんでも……ない、です……」
フェルミーの顔が赤い。
耳もりんごのようだ。
「もしかして、風邪か?」
「ひゃん!?」
額に手をやると、フェルミーが妙な声を出して震えた。
「あ、あああ、あのっ、先輩!?」
「じっとするように。ふむ……少し熱っぽいな」
「そ、それはだって、こんな状況じゃあ……」
「大丈夫か? なんなら、俺から団長に伝えて、今から王都に引き返すことも……」
「だ、大丈夫です!」
「そうか?」
「ただ、その……」
フェルミーは、ぴたりと俺にくっついてきた。
やや歩きづらいのだけど……
そうしないと、フェルミーは歩くことが難しいのだろうか?
「少しの間、こうしていてもいいですか?」
「ああ、問題ないよ」
「ありがとうございます! ……えへへ♪」
熱があるはずなのに元気そうだ。
なんだろう?
それと……
「「「あの野郎、いつの間に可愛い新人を……」」」
周囲の男の騎士達から刺々しい視線が飛んできたが、そちらもなぜだ?
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