20話 トラブルは絶えない
その後、予約しておいた洒落たレストランで食事をして……
午後は、特に予定なく街を散歩して……
のんびりと、でも、楽しい時間は続いていく。
「ねえねえ、ジーク! 次はなにをしようか?」
ちょくちょく機嫌が悪くなっていたユースティアナだけど、今は笑顔だ。
子供のようにステップを踏んでいる。
よかった。
良い気晴らしになっているようだ。
最近は、なぜかストレスが溜まっていたみたいだから……
きっと、団長の仕事が大変なのだろう。
物理的な面だけじゃなくて、こういう心のケアもしていきたい。
「じゃあ……競馬でも行ってみるか?」
「え、競馬? えー……」
とても嫌そうな顔をされた。
「賭け事はいけないんだよ? ほどほどならいいけど、ドハマりして、人生を台無しにしちゃう人もいるんだから」
「その、ほどほどで楽しめばいいんだよ。競馬って、単純に賭けることが全てじゃなくて、走る馬を応援する、っていうところもあるんだよ。憧れの人を応援するのと同じような感覚で」
「んー……そう言われると?」
「女性も多くいるし、けっこう楽しめると思うぞ? 賭けるにしても、銅貨単位でやればいいし」
「……ならアリかな?」
ユースティアナは、ちょっと真面目すぎるな。
まあ、そこが彼女の魅力でもあるが。
「じゃあ、競馬場に……」
行こう、と言いかけたところで悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ?」
「ジーク!」
「ああ」
さすがに放置することはできず、悲鳴が聞こえた方に向かう。
「もう止めて! 私はもう、あなたについていけないの!」
「うるせえっ! お前は俺の女だ、俺に口答えをするな!!!」
男が女性の腕を乱暴に掴み、怒鳴りつけている。
一方の女性は苦しそうにして、涙を浮かべていた。
痴話喧嘩のようだけど……
ただ、少しまずい状況かもしれない。
男は興奮した様子で、いつ暴力事件に発展してもおかしくない。
周囲にいる人達も同じ感想を抱いたらしく、騎士を、などという声が聞こえてきた。
騎士ならここにいる。
すぐに解決することができる。
ただ、その場合はデートを続けることは不可能で……
「ジーク、行くよ」
ユースティアナは、迷うことなく言い切る。
「……いいのか?」
「考えるまでもないよ。私達は騎士。なら、やるべきことは一つだよ」
デートを続けたいという気持ちはあるはずだ。
でも、それ以上に、目の前の事件を見逃せないという気持ちの方が強いのだろう。
ユースティアナは、そういう人なのだ。
正義感が強くて、とても真面目で。
自分よりも他人のことを優先する。
そして、それが当たり前のことと思っている。
そんな彼女だからこそ、俺は……
「了解。団長のおおせのままに」
「……では、行きましょう」
氷の妖精モードにチェンジしたユースティアナは、いざという時のために隠し持っていた短剣を抜いた。
――――――――――
「はぁ……」
夜。
ユースティアナは、自室でため息をこぼしていた。
思い返すのは、ジークとのデートだ。
とても楽しい時間だった。
ジークがやや……いや。
かなり鈍いことを除けば不満はない、ほぼほぼ100点満点のデートだった。
残念なことに途中で中断されてしまったものの……
それでも十分。
楽しい思い出を作ることができた。
「楽しかったなぁ、素敵だったなぁ……」
デートを思い返して、うっとりするユースティアナ。
氷の妖精とか言われているものの、本来は、彼女もまた一人の女の子なのだ。
「また、デートしたいな」
窓の外を見る。
月が綺麗に輝いていた。
「……ジークとデートがしたいな」
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