18話 幼馴染は大事にしないとダメ
「……」
第三騎士団の塔。
団長室。
その執務机を陣取るユースティアナは、とても不機嫌そうな顔をしていた。
そこにいるだけで冷たいオーラを放ち、それに慣れていない団員は逃げるか失神してしまう。
猫や鳥などの動物も寄りつかない。
「えっと……ユースティアナ?」
彼女に呼ばれてやってきたのだけど、任務という雰囲気ではない。
でなければ、子供のように頬を膨らませて、ふいっと拗ねるところなんて見せない。
「……ジークは、私のなに?」
「なに、と言われても……部下?」
「違うよ! 幼馴染なんだよ!」
「まあ、そうだな」
ユースティアナの言いたいことがわからない。
なんか、過去一番のピンチに立ち会っているかのようだ。
「幼馴染は大事にしないとダメなんだから!」
これ以上ないほど大事にしているつもりなのだが……
これでも足りないのか?
もっともっと、徹底的に甘やかせということなのか……?
「……最近、あの新人ちゃんと仲が良いみたいだね?」
「新人ちゃん? ……ああ、フェルミーのことか」
「もう名前で!?」
「最近、ようやく心を開いてくれたみたいでな。良い関係を築くことができたと思っているよ」
「良い関係!?」
「今日も、午前は楽しく突き合ってきたところだ」
「突き合う!? ナニを!?」
ユースティアナは、なぜ、そんなに驚いているのだろう?
普通に稽古をしただけなんだけどな……
「私のことも突いていいよ!?」
「いや、俺がユースティアナに敵うわけないだろ」
「大丈夫! 私、じっとして我慢するから!」
「稽古でじっとしてどうするんだよ」
「……稽古?」
「稽古の話だろ?」
「……あぁ、うん! そうだよね! 稽古の話だよね! あはははっ」
なぜか、ユースティアナが真っ赤になる。
りんごみたいだ。
「と、とにかく!」
ユースティアナは、私は不服です、とアピールするかのように執務机をばんばんと叩いた。
「最近、ジークは新人ちゃんにつきっきりになりすぎ! 私のこともちゃんと構うように!」
「そう言われても……じゃあ、今日は俺の部屋で飲むか?」
「んー……それも悪くないけど、もう一声欲しいな」
「朝まで飲み明かす?」
「長さじゃなくて」
ユースティアナの求めるものは難しいな。
「……デート」
「え?」
「だから、その……ジークとデートがしたいな♪」
ちょっと頬を染めて。
チラチラとこちらを見て。
可愛らしくおねだりをするユースティアナ。
それは反則だ。
控えめに言っても、うちの幼馴染は可愛い。
天使とか女神のよう。
それで、こんな風に言われたら、なんでも言うことを聞いてしまいそうになる。
「ただ……遊びに行く、っていうのは難しいんじゃないか? ユースティアナって、俺ら騎士だけじゃなくて、民の間でも認知度が高いだろう? 外に遊びに行けば、すぐに騒ぎになるぞ」
ユースティアナは、その強さだけではなくて、可憐な外見も注目されていて、騎士団の広告塔としての仕事をする時がある。
そのため、民に広く顔を知られていて、なおかつ人気が高い。
「それは、そうかもだけど……」
ユースティアナは、しょんぼりと言う。
「……ジークとデート、してみたかったんだもん」
それも反則だ。
どうしても叶えたくなってしまうじゃないか。
「ふむ」
考える。
……ややあって、閃いた。
「いけなくは……ないか?」
「本当!?」
「ちょっと検証してみないから、確実とは言えないが……なんとかなるかもしれない」
「やった♪ ありがとう、ジーク!」
ユースティアナが笑顔で抱きついてきた。
「お、おいっ」
「えへへ~♪ ジーク優しい、好き。持つべきものは幼馴染だねー」
手の平くるっくるだな、おい。
「……失礼します、団長。この前の事件についてですが……」
ドガァッ!!!
ガシャンッ!!!
「はい、なんでしょうか?」
「いえ、あの……その前に、なぜ、ストライクスは本棚にめり込んでいるのでしょう……?」
「稽古をつけただけです」
「稽古? いや、しかし……」
「稽古です」
「……了解いたしました」
納得しないでくれ。
あと、助けてくれ……これ、自力では抜けられそうにないぞ。
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