17話 懐かれた
事件は解決。
奴隷商人と、その関係者は全て逮捕。
囚われていた奴隷も解放された。
王国で奴隷制度は認められていない。
重大な人権侵害となるため、極刑。
あるいは、終身刑となり、死ぬまで重労働を課せられることになるだろう。
ノーワルも、あの後、検査を受けたものの怪我はない。
心のケアは必要かもしれないが……
なんだかんだ、強い子だ。
きっと大丈夫。
まあ、騎士なのに捕まってしまったのはマイナスポイントだが……
新米ということで、そこまで大きな叱責をもらうことはないだろう。
そうして事件は解決して……
そして、一つの変化が訪れる。
――――――――――
「先輩!」
食堂で朝食を食べていると、元気のいい声が聞こえてきた。
振り返ると、笑顔のノーワルが駆けてくる。
「先輩もごはんなんですね。一緒してもいいですか?」
「あ、ああ……それはいいけど」
「けど?」
「……なんか、性格が変わっていないか?」
そう。
あれからずっと、ノーワルはこんな調子だ。
小生意気な野良猫から、素直な忠犬に変わっていた。
「えっと……あたし、ちょっと虚勢を張っていたところがあって。舐められたら負けだー、って」
「それで、ツンツンした態度を?」
「すみませんでした!」
「いや、別に気にしていないが……」
「よかったです! あ、一緒してもいいですよね……?」
ちょっと不安そうに尋ねてくるところが犬っぽい。
「いいよ」
「ありがとうございます!」
一転して笑顔に。
もしも尻尾が生えているとしたら、ぶんぶんと振られていただろう。
「先輩って、朝はパン派なんですか?」
「そういうノーワルは米派なんだな」
「先輩がパンなら、明日からパンに改宗します!」
「いや、なんで?」
「先輩がパン派だからです!」
答えになっていない。
あと、宗教のように言うな。
神様に失礼だろ。
「えへへ~♪」
「どうしたんだ? 突然、笑ったりして」
「朝から先輩と一緒にいられて嬉しいなー、って」
「別に、俺なんかと一緒にいても意味ないだろ」
「そんなことないですよ。幸せな気持ちになります」
「安い幸せだなぁ」
「あたしにとっては、至高の幸せですよ♪」
うーん。
なんだか、ものすごく懐かれてしまった。
奴隷商人の事件で助けたからなんだろうけど、まさか、ここまで変わるとは……
でも、これなら新人教育はやりやすいか。
よしとしておこう。
「っ!?」
瞬間、ゾクリとした悪寒が。
慌てて振り返ると、
「……」
ユースティアナがこちらを睨んでいた。
めっちゃ睨んでいる。
え、なに?
俺、なにかした……?
「ふんっ」
ユースティアナは、私は不機嫌ですよー、という態度をこれみよがしに取り、どこかへ消えた。
途中、彼女が放つオーラに失神する団員もいたほどだ。
いや……本当になんで?
あいつは、なぜ、あんなに怒っているんだ……?
「どうしたんですか、先輩?」
「え? ああ、いや……なんでもない」
「そうですか。あ、そうだ。今日は稽古、つけてもらえるんですよね?」
「そのつもりだけど……もしかして、都合が悪いとか?」
「まさか! むしろ、とことん稽古をつけてほしいです!」
ものすごくやる気に満ちあふれていた。
人が変わったとしか思えない。
俺、間違えて違う人を救出したんじゃないか……?
「あたし、まだまだっていうことをとことん痛感しましたから……だから、先輩に稽古をつけてほしいです! 今日もよろしくお願いします!」
「まあ……うん。やる気があることは良いことだ」
「ありがとうございます! それと、稽古の後の街の見回りですけど、あたしと一緒に組んでもらってもいいですか?」
「それもいいけど……」
「ありがとうございます! やった、先輩と一緒だ♪」
なんだ、この可愛い生き物は?
今までが生意気だっただけに、ギャップがすごい。
「あ、先輩」
「うん?」
「頬にソースがついていますよ? えいっ」
ノーワルが指先で俺の頬を拭う。
「えへへ♪」
「……ノーワルは、なんかこう、魔性の女性になりそうだな」
「なんですか、それ? あ、それと……あたしのことは、フェルミー、って名前でお願いします」
「そうか? じゃあ、フェルミーで」
「はい!」
ノーワル改めフェルミーは、今日一番の笑顔を咲かせるのだった。
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