16話 先輩の役目
「ったく……一人で勝手に暴走するから、こんな目に遭うんだぞ? 少しは理解したか」
「……ストライクス……?」
涙目のフェルミーがこちらを見た。
上着がはだけて、色々と大変な格好だけど……
どうやら、ギリギリのところで間に合ったみたいだ。
「大丈夫か?」
「ど、どうして……?」
「ノーワルがいなくなった、っていう話を聞いてな。色々と調べたらここが判明して、今、第三の一部を連れて乗り込んだところだ」
「騎士団だと!? バカな! なぜ、ここを突き止めることができたのですか!?」
「あんたが、ここの主か? 以前から秘密に調査が進められていてな。あんたは、いいように泳がされていただけだ」
本当なら、もう少し、泳がせておくつもりだったらしいけど……
ノーワルがさらわれたかもしれないと知り、ユースティアナは、迷うことなく出撃命令を出した。
「し、しかし、騎士団を見張らせている部下からは報告がないぞ!? 騎士は動いていないのではないか!?」
「動いているさ。ほら、その証拠に、俺がここまで来ることができた。それで、誰もあんたを助けに来ようとしない。今、仲間達があんたの部下と交戦中だからな」
……これ、実は嘘だ。
奴隷商人が言うように、第三騎士団は出撃を決めたものの、準備に時間がかかり、少し遅れてしまう。
それではまずいと、先に、俺一人で乗り込むことにした。
奴隷商人の部下達は、すでに全員、殴り倒している。
……ちょっと派手に暴れたものの、俺の仕業ということはバレないだろう。
たぶん。
「さて……おとなしく捕まってもらえるか? それなら痛い思いはしないし、素直なら、多少は減刑されるかもしれないぞ」
「くっ……おい、仕事だ!」
奴隷商人の合図で、もう一人の男が動いた。
たぶん、護衛として雇われた傭兵だろう。
「仕事だ。ここで殺すが、悪く思うな」
「別に。殺されるつもりは欠片もないからな」
「ふっ……仲間の騎士が後に控えているから、強気に出ることができているのか? しかし、それは弱者の証。真の強者は、たった一人で全てに抗い、戦い続けねばならないのだ。それができぬ貴様は、所詮、愚か者よ」
……などと、色々と得意そうに語る傭兵。
この時点で、こいつの底は知れていた。
俺を前にして、それでもなお自身の強さに自信を持つことができる。
勝利を疑うことは欠片もない。
そういうヤツは、二つのパターンに分かれる。
一つは、真の強者だ。
俺を圧倒的に上回る、神の領域に存在するもの。
もう一つは……
相手の実力をまったく見抜くことができない、『自称』強者だ。
「いくぞ」
「こい」
傭兵は不敵な笑みを浮かべると、腰の剣を抜いて斬りかかってきた。
その一連の動作は水が流れるかのよう。
そして、一切の無駄がないだけではなくて、風のように速い。
狙いも正確だ。
一撃で仕留めるために、刃は俺の首を刈り取ろうとしている。
だからこそわかりやすい。
避けるのは簡単で、一歩、後ろに下がる。
俺は剣を抜いて……
「なっ!?」
投げつけた。
いきなり武器を手放すなんて考えていなかったのだろう。
傭兵は驚きつつ、飛んできた剣を弾いた。
慌てているせいで、とてもずさんな動きだ。
よし、狙い通りだ。
致命的な隙を晒してくれた傭兵の懐に潜り込み、腹部に一撃。
「かはっ」
よろめいたところで、足を払う。
コケたところで腕を後ろに極めて……折る!
鈍い音。
それから、傭兵の悲鳴が響いた。
うるさいので、顎を蹴り上げて意識を刈り取り、黙らせておいた。
「さて、と……次はお前だな?」
「ひ、ひぃっ……!? な、なぜ……そいつはAランクに匹敵する傭兵だというのに、こうもあっさりと……」
「んー……それだけ騎士団の護身術が優れている、っていうことだな」
これは、わりと本当のことだ。
今の戦い、剣を投げるところ以外は、全て騎士団で習った技術を使い、傭兵を倒した。
冒険者と同じように、騎士も、常に最前線で活動する。
そのため、磨かれた技術はかなりレベルが高い。
「俺の可愛い後輩をいじめてくれたんだ。覚悟はいいな?」
「ま、まて!? いくら欲しい? いくらでも払おうではありませんか! だから、ここは……」
「黙れ」
「ひぎゃ!?」
声を聞くのも不快なので、早々に黙らせておいた。
「ふぅ……まったく。あんなの、泳がせておくべきじゃないだろ」
「……」
「っと、待ってろ。すぐに自由にしてやるからな」
「……」
ぽかーん、と放心状態のノーワルに歩み寄り、手足の拘束をナイフで切る。
こういう時のために、予備のナイフはいくつも常備している。
それから俺は上着を脱いで、ノーワルにかけてやった。
「大丈夫か? 怪我はしていないか?」
「……た」
「うん?」
「こ……怖かったよぉ……ひっく、うぅ……うぇえええええっ」
ノーワルはぽろぽろと涙をこぼして、抱きついてきた。
意外な反応だけど……いや。
これが、この子の素なのかもしれないな。
「大丈夫、大丈夫だ。もう全部終わったから」
「……ありがとう……」
「どういたしまして」
「それと、もうちょっとだけ……」
「ああ」
もう大丈夫。
そう伝えるかのように、震えるノーワルをしっかりと抱きしめて、頭を撫でるのだった。
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