15話 奴隷商人と騎士
「……ぅ……」
暗闇に沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。
フェルミーは目を開けて……
「いっ……!?」
頭部に痛みが走り、小さな悲鳴が漏れた。
反射的に頭に手をやろうとするが、しかし、動かない。
「拘束されている……?」
ようやく、フェルミーは己の手足が頑丈な縄で縛られていることに気がついた。
どうして、こんなことに?
フェルミーは動揺しつつも、騎士として、冷静に状況を把握しようと努める。
今いる場所は、窓のない牢だ。
対面にも牢があるところを見ると、牢は一つではないのだろう。
そして、女性がすすり泣く声があちらこちらから聞こえてくる。
囚われているのもまた、自分一人ではないことを理解した。
「これ……もしかして、奴隷商人の……?」
「正解です」
足音が近づいてきて、横に幅の広い男が現れた。
身につけている服や装飾品は派手なものでまとめられている。
その隣に、屈強な肉体を持つ、傭兵のような男がいた。
護衛だろう。
「今日は素敵な日ですな。まさか、このような素敵な商品を手に入れられるなんて」
「……その商品って、あたしのこと?」
「ええ、ええ。もちろんですとも。騎士の奴隷なんて、なかなか手に入れられる商品ではありませんからなぁ……どれだけの値がつくか。考えると、楽しみで眠ることができそうにありませんよ」
「くっ、ゲスめ……!」
「いいですねぇ。その強気な性格、ますます価値が高くなる。あなたのような騎士を屈服させたい、というお客様はたくさんいらっしゃいますからね」
「あんたも、そのふざけた客も、あたしがまとめて叩き切ってあげるわ!」
「んー……」
力強く言い放つフェルミーを見て、奴隷商人は考えるように顎髭を撫でた。
「あなたはとても魅力的な商品ですが、このままだと、お客様に迷惑をかけてしまうかもしれませんね」
「うるさいっ、この縄をほどけ! 今すぐに斬り捨ててやるわ!」
「まったく……これはどうやら、躾が必要なようだ」
奴隷商人はニヤリと笑い、牢の中に入る。
「な、なによ……」
「躾をするのだよ」
「きゃあ!?」
上に乗るようにして、フェルミーを押し倒した。
「や、やめなさいよ! あんた、後で絶対に後悔させてやるわよ!?」
「ほう、おもしろい。できるものならしてほしいですな」
「うっ……」
奴隷商人は力任せにフェルミーの上着をはだけさせた。
白い肌。
それと、下着があらわになる。
「ほう、これはこれは。やや胸は足りないですが、なかなか綺麗なものですね。なんとも楽しめそうだ」
「……て」
「ん?」
「……やめて、ください……」
怖い。
怖い。
怖い。
騎士として、こんな悪党に屈してはいけない。
しかし、この先のことを考えると、どうしても体が震えてしまう。
恐怖で涙が出てきてしまう。
「はっ……ははははは! 私はまだ、上着をはだけさせただけですよ? それなのに、もう涙目になってしまうとは……とんだ騎士様だ。まったく、ヤリがいがないですな」
「お、お願い……お願いしますから、これ以上は……」
「……もう遅いですよ」
「ひっ!?」
奴隷商人はフェルミーを押さえつけつつ、今度はスカートに手を伸ばしていく。
その行為が示すことを理解したフェルミーは、さらに顔を青くした。
嫌だ。
汚い。
止めて。
色々な感情がごちゃまぜになり、震えが止まらない。
涙がぽろぽろとこぼれてしまう。
……これが、フェルミーの本当の姿が。
普段、やたら刺々しいものの……
その言動は本心ではない。
単に素直になれないだけ。
それと、防衛のためだ。
自分を強く見せる。
高く、上から見ることで立場の違いを認識させる。
そんな歪な自己防衛の果てに形成された言動だ。
ジークに強くあたっていたのも、そうすれば下に見られないと思ったから。
子供のような考えではあるが……
フェルミーなりに一生懸命に考えた自己防衛だった。
「ひひひ、いいですねぇ。泣き叫ぶ女を徹底的に屈服させて、自分の色に染めるのは、とても楽しいですよ」
「や、やだぁ……」
「せいぜい、良い反応をして楽しませてくださいね? おっと、あなたも楽しみますか?」
奴隷商人は、一応という感じで護衛の傭兵に聞いた。
「……やめておこう。さすがに仕事を放り出すわけにはいかない」
「真面目ですねえ。こんなところに誰もやってくるわけがないというのに」
「そうでもないぞ?」
ふと、そんな声が響いた。
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