14話 暴走する新人騎士
「ひゃあ!?」
いつものようにフェルミーに稽古をつけていた。
彼女の木剣を弾き飛ばして……
ついでに、足払いをしてコカす。
フェルミーが尻もちをつくのは、これで何度目だろうか?
「だから、甘い。相手の剣だけを見ないように。全体を見ろ」
「なによっ、攻撃にだけ気をつければいいじゃない!」
「体の各部の動きを見ることで、次の行動を予測できる。足に力が入れば、踏み込んでくる前兆だ、っていう具合に。攻撃だけに気を取られた結果がコレだ」
「ぐぬぬぬっ……!」
とても悔しそうに唸る。
以前なら、ここで捨て台詞を吐いて逃亡していたのだけど……
「全体を見る。これは、基礎中の基礎だ」
「……どうすればいいのよ?」
ふてくされた様子を見せつつも、質問をぶつけてきた。
お。
これは良い傾向だな。
「意識的に全体を見ろ。それで剣が見えなくなってもいい。とにかく、全体を見る癖をつけるんだ。まずは、そうやって強引にでも矯正した方がいい」
「……剣を見ないと、攻撃が見えないじゃない」
「今は受けてもいい。まだ、実戦に出ることはないからな。それよりも、一点しか見えなくなる悪い癖を直す方が優先だ」
「……えっ、ちょっとまって」
おとなしく話を聞いていたフェルミーだけど、途端に慌て出した。
「あたし、実戦に出られないの!?」
新人は、最低、一ヶ月は訓練を受けないとダメだ。
その一ヶ月が過ぎるまで、戦場に出ることは絶対にない。
入団の際、そう説明されていたと思うが……
「出られないな」
「そ、そんな……」
「最初の一ヶ月で徹底的に鍛えるんだ。でないと、死亡率が一気に跳ね上がるからな」
「その間になにか起きたら、手柄を立てられないじゃない!」
「自惚れるな」
「っ……!?」
睨みつけると、フェルミーは萎縮した。
「入団したばかりの新人が手柄を考えるなんて、100年早い。今は、強くなることだけを考えろ」
「な、なによ……あんただって新米でしょ!」
「それでも、最初の訓練は乗り越えた。半年、経っている。特に問題はない」
「……くっ……」
フェルミーは怒りの形相で睨みつけてきた。
ただ、そんなものに怯む俺ではない。
「これは、第三だけの問題じゃなくて、騎士団全体の方針だ。それに異論があるというのなら、団長に話をしてもらおうか」
「そ、それは……」
さきほどまでの怒りが消えて、フェルミーが怯んだ。
さすがの彼女も、氷の妖精は怖いらしい。
「できないというのなら、方針に従ってもらおうか」
「……一ヶ月経てば、実戦に出られるの?」
「課題をクリアーしていたらな」
「もしもクリアーしていなかったら?」
「その時は、また一ヶ月をやり直しだ」
「そんな……!」
「安心しろ。なんだかんだ、ノーワルは筋が良い。よほどのヘマをしない限り、きちんと課題をクリアーできるだろう」
「ほ、本当!?」
今度は瞳をキラキラと輝かせた。
……わかりやすいヤツだ。
ちょっと生意気ではあるものの、本当は可愛いヤツなのかもしれないな。
「と、いうわけで……今日の稽古は終了だ。午後は?」
「街の見回りが入っていますけど……あたし、あなたとご飯になんて行きませんよ?」
誰が誘うか。
「任務が入っているなら仕方ないが、そうでない時……時間がある時は、しっかりと休んでおけよ。体を整えるのも仕事の内だ」
「わかっているわよ、そんなこと。ふんっ」
やっぱり生意気なヤツだ。
――――――――――
「なによあいつ、なによあいつ!」
フェルミーは怒りでぶつくさとつぶやきつつ、街の見回りを行う。
その胸の内は、ジークに対する怒りでいっぱいだ。
確かに、彼の言うことは正しいかもしれない。
手を抜くことなく、しっかりと稽古をしてくれている。
でも、
「頭に来るわ、もうっ」
言葉の節々に棘があり、それが苛立ちを誘う。
「どうしたんだい?」
「……なにも」
パートナーの騎士が不思議そうな顔をした。
素直に怒りをぶちまけるわけにはいかず、フェルミーは適当にごまかす。
「よし、この辺りは問題なさそうだね。次の場所へ行こうか」
「はい」
「っと……ちょっと待ってて」
穏やかな性格の騎士は、そう言うと、小走りに駆けていく。
その先に、荷物を持つ老婆がいた。
二言三言交わして、代わりに荷物を持つ。
「まったく……」
お人好しだ。
そう思うものの、フェルミーは、彼を非難するつもりはない。
騎士は人々を守る盾だ。
あのように老婆の手助けをすることも、また、騎士の仕事の一つだ。
「ちょっと遅れちゃうかも……まあ、仕方ないか」
ため息をこぼして、
「……ん?」
ふと、裏路地の方で悲鳴らしきものが聞こえてきた。
本当に小さなものなので、フェルミー以外、誰も気づいていない。
「え、これって……先輩!」
「ちょっと待ってて、すぐに終わるから」
「いえ、そうじゃなくて……ああもうっ!」
事件が起きているとしたら急がないといけない。
先輩を待っている場合じゃない。
そう判断して、フェルミーは一人で裏路地に駆けていった。
――――――――――
「おまたせ……って、ノーワルさん?」
パートナーの騎士が戻った時は、フェルミーの姿は消えていて……
周囲を探索するものの、彼女の姿が見つかることはない。
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