13話 逆に癒やしてほしい
「あー……疲れた……」
「そんなに疲れたの?」
自室で、ぐだーっと横になる俺。
そんな俺を、ちょっと心配そうに見るユースティアナ。
「あの新人、相当酷いぞ……実力はあるかもしれないが、それ以外が皆無だ。知識と教養と常識をどこかに置き忘れてきたんじゃないか?」
「そ、そこまで……? 私は、若いからちょっとやんちゃなところはあるけど、すごくいい子に見えたけど」
「ユースティアナと同じ、猫かぶりなんだよ。フェルミーって、ユースティアナに憧れているみたいだから」
「私に? そうなんだ……えへへ♪」
うちの団長がちょろすぎる。
氷の妖精モードでも籠絡されないか心配だ。
「あれ、ちゃんと育てないとダメ?」
「うーん……できれば」
「マジか」
「フェルミーちゃん、伯爵家の娘なんだ。だから、ぐだぐだな感じになっちゃうのは、ちょっと困るかな?」
「あー……権力が絡むと面倒なことになるな」
「最悪、私の権力でなんとかするから問題はないけどね」
ユースティアナの家は、公爵の位を授かっている。
相手が伯爵なら、どうとでもなるだろう。
「ただ、そういう権力を抜きにしても、フェルミーちゃんを一人前にしてほしいかな、って思うよ。才能はあると思うし、やる気は誰よりも負けていないと思う」
「まあ……やる気は感じるけどさ」
今は、そのやる気が空回りしている。
とにかく手柄を立てて、活躍することを考えていて……
まったく周りが見えていない。
「難しいかな……?」
ユースティアナは、しゅんっとした様子で、そっと尋ねてきた。
その言い方はずるい。
「はぁ……できるだけやってみるよ」
「やった! さすが、ジーク。期待しているね♪」
「できるだけ、だからな? 失敗しても、文句は言わないでくれよ」
「うんうん、大丈夫。ジークなら、きっとうまくいくよ!」
話、聞いていないな?
「しばらくは胃痛に悩まされそうだな」
「え? ジークって、ストレス耐性は強いんじゃない?」
「なんで?」
「だって、私の本当の顔を知っているから」
「自分で言うな」
「てへ」
「可愛い顔をしてごまかそうとするな」
「私、可愛い? えへへ♪」
「……ユースティアナは、色々な意味で無敵だな」
彼女に逆らえる気がしない。
あと、彼女のお願いは、ついついなんでも聞いてしまいそうだ。
「ジーク、ジーク」
「んー……?」
「えいっ」
ぱたん、と倒された。
その先に、ユースティアナの膝。
俺の頭が乗る。
「……なにこれ?」
「膝枕だよ、知らない?」
「いや、もちろん知っているけどさ……」
「疲れているみたいだから、私が癒やしてあげようと思って」
「癒やされる……のか?」
「男の人は、美少女の膝枕、大好きなんじゃないの?」
「まあ、好きだろうけど……自分で言うか?」
「てへっ」
本当、俺と二人きりの時のユースティアナは、表情が豊かだ。
ここまでくると、二重人格を疑うレベル。
まあ……
それだけ俺に心を許してくれているのだろう、と考えると嬉しくはある。
「よしよし」
ユースティアナは優しく俺の頭を撫でる。
「疲れた疲れた、とんでけー」
「なんだ、それ?」
「痛いの痛いの、の疲労バージョン」
「効果あるのか?」
「さあ?」
「自分でもわからないのかよ」
「でも、気持ちいいでしょう?」
女性に膝枕をされて、頭を撫でられている。
……否定できないな。
「……もうちょい頼む」
「延長入りましたー」
「その言い方、やめろ」
「なんで? そういえばこれ、他の団員が使っていたんだけど、どういう意味なのかな?」
「ユースティアナは知らなくていいよ」
「???」
氷の妖精さんは、情操教育がちょっと幼いところで止まっていた。
良く言えば純粋。
悪く言うと世間知らず。
でも、俺はそれでいいと思う。
ユースティアナには綺麗なままでいてほしいし……
足りないところは俺が補えばいい。
……なんて、そう考えてしまうのは身勝手だろうか?
「ふぁ……」
ついついあくびがこぼれてしまう。
「眠い?」
「……少し」
「寝ていいよ」
「でも……」
「いいから、私のことは気にしないで。いつもジークに助けられているから、そのお返し」
ドキッとした。
助けられているっていうのは……
「ジークが一緒にいるから、私、がんばることができるんだ。こうして、素の自分を出せることができるし、本当の私を知ってくれているし……うん。そう思うと、がんばるぞー! っていう気持ちになるんだよ」
そっちか。
俺が裏で色々とやっていることに気づいているのかと、ヒヤヒヤした。
「だから、その恩返し。寝ちゃっていいよ」
「……じゃあ、今回は甘えるよ」
俺の頭を撫でるユースティアナの手は、とても優しくて、そして温かくて……
じわじわと広がる睡魔に抗うことができず、俺は、そっと目を閉じた。
「ふんふ~ん♪」
眠りに落ちる前、ユースティアナの子守唄が聞こえたような気がした。
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